映画「選ばなかった道」…バルデムの熱演には感嘆! | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:The Roads Not Taken
製作年:2020年 製作国:イギリス・アメリカ合作 上映時間:86分
 

 

身内に認知症を抱える身としては、身につまされながらもやはり認知症作品を
観てしまう.予告で気になっていた問題作品をMovix柏の葉で観てみた.
本年度累積50本目はイギリス作品.

ハビエル・バルデムとエル・ファニングが父娘役で初共演し、認知症を抱える
父の幻想と彼を介護する娘の現実を交差させながら描いたヒューマンドラマ.

「耳に残るは君の歌声」などのサリー・ポッター監督が自身の弟を介護した
経験をもとに、自ら脚本を執筆しメガホンをとった。ニューヨークのアパートで
ひとり暮らすメキシコ移民の作家レオは認知症を発症しており、誰かの助け
なしでは日常生活もままならず、娘モリーやヘルパーとの意思疎通も困難な
状況にあった.

ある朝、モリーはレオを病院に連れて行くためアパートを訪れる.
レオはモリーが隣にいながらも、初恋の女性と出会った故郷メキシコや、
作家生活に行き詰まり一人旅をしたギリシャへと、心の旅を繰り広げる.

共演は「マイ・ライフ、マイ・ファミリー」のローラ・リニー、「フリーダ」

のサルマ・ハエック.

2020年・第70回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品.

以上は《映画.COM》から転載.
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重かった.昨年のアンソニー・ホプキンスの「ファーザー」も衝撃的だったが、
その比ではない、重症の認知症をハビエル・バルデムが演じている.
体は動くが、認知症の進度は酷く、言葉もままならない.周囲環境の認識も
無いし、親者…娘の存在もよく認識できないほどなのだ.

そんな父親レオを励まし、背中いやお尻を押すようにして娘モリー:エル・

ファニングは歯科医と眼科に連れだそうとする.

そんな1日を描いた86分間の物語.

思えば5年前、認知症の父親を連れて毎週歯科医に通っていたことを思い出させる
辛辣な内容.自己体験に直訴えられるのは少しきつかった.ただ私の父は老年性の
緩やかな認知症であるが、本作のレオは若年性認知症で症状の進行も早く、重い.

レオはメキシコ移民の作家だったらしい.今は線路沿いのアパートに独りで暮らす.
一人ではもはや生活できず、娘のモリーとヘルパーの助けがなければ生きることも
ままならない.

周囲への反応が鈍く、ぼんやりしているように見えるレオはしかし、頭の中で、
メキシコ時代に愛していた女性ドロレス:サルマ・ハエックとの日々と、
執筆に行き詰まりギリシャの海辺で過ごしたときのシーンが繰り返し描かれる.
 

 

 

 

 

題名(原題)から言うならば、あの時の人生の重要な分かれ道……家族のこと、
パートナーとの関係、仕事のうえでの決断などで、選ばなかった道への後悔の
数々を頭の中で巡っているのだろう、と思えるのだが私にはそう見えなかった.

過去のそれぞれの場面においてレオは健常者のように振る舞ってはいるが、
その実、若年性認知症が始まっているように見えた.メキシコ時代のドロレス
との亡くした息子の回顧、弔いの儀式への参加を迷う振る舞いはもう既に
自己決断力が崩壊しているように見える.

仕事に行き詰まり、自分の小説の結末を決められないで訪れたギリシャでは、
行きずりの若い女の子にその小説の結末の意見を求めたり、あげくはその娘を
ストキーングする始末.もう病気が発病しているのである.

結局は決められない、判断できない人生を思い出しているだけにしか見えない.
邦題は微妙に外していると思う.「選ばなかった道」ではない.「選べなかった道」
なのである.この一文字の違いは大きい.

バルデムの演技は真に迫っており、大熱演と思う.
エル・ファニングも好演だが、最後の決断をしかと表現できなかったのは
本人の責任ではなく、演出監督の責であろう.

86分の短尺に救われた感、これ以上は観るに耐えなかったかも.