映画「紅の豚」(地上波TV観賞)…愛して止まないジブリの最高傑作. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



製作年;1992年 製作国:日本 上映時間:94分
 

 

ジブリ作品はほとんど観ている、初期の「パンダコパンダ」までもだ.
そんなジブリ作品の中で、個人的には一番好きで、最高傑作と疑わない作品.

このたび、地上波金曜ロードショーで放送されたので、またまた観てしまった.
今年の観賞カウントには加えないが、今までレビューを書いていなかったので、
ここで忘備の為にも残しておく.

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宮崎駿監督、原作、脚本、スタジオジブリ制作による劇場用アニメーション作品.
第1次大戦後のイタリア、アドレア海。暴れまわる空賊相手に賞金稼ぎをしている
ポルコ・ロッソは、自分に魔法をかけて豚の姿になった飛行機乗りだった.

ある時、目障りなポルコを倒すため空賊たちがアメリカ人の凄腕パイロット、
ドナルド・カーチスを雇い、ポルコは機体の不具合もあって不本意にもカーチスに
撃ち落とされてしまう.

幼なじみのジーナの心配をよそに、機体の修理のためミラノにいる昔馴染みの
飛行機製造工のピッコロを訪ねたポルコは、そこでピッコロの孫娘フィオに出会う.
本作の主題歌を歌う加藤登紀子が、ヒロイン・ジーナ役の声優も務めた.

以上は《映画.COM》から転載.
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これだけ大好きな作品なのに一度も劇場で観ていない.ビデオやTVだけの観賞.
公開時の1992年はフランスに在駐していた.日本への出張時にVHSビデオを
買い求め、フランスに持参したNTSC方式の14inchのTVでする切れるほど観た.
テープは擦り切れなかったが、VHSデッキが壊れた(笑).もちろん予備にもう1台
日本から持ち込んでいたが(笑).

色々なジブリ作品の中でも、色彩配置や画面構成の取り方、そして宮崎駿らしい
作家性が光る脚本には頭が下がる.この時が彼のピークだったのではないかと
思う.商品としても作品としても非常に良い出来の作品と信じて疑わない.

ごくごく私的な趣味だが、私は大の飛行機好き.大学卒業後も航空会社の整備士
を目指したが、夢破れてカメラ会社に就職した履歴を持つ.宮崎駿の病的ヒコーキ
好きに通ずるものがあって、共感以上のものをもっている.

その宮﨑駿が生み出した主人公ポルコ・ロッソの繰る乗機サボイアS-21の美しさに
はほとほと感心してしまう.サボイア社は実際に存在するし、1925年当時のマッキS33
という似た機体は存在するも、完全に宮崎の創作機である.このセンスは驚異的だ.
 

 

 

 

1930年代前半という設定、イタリアではムッソリーニを筆頭にファシストの嵐が
吹き荒れていた時代.ポルコは嫌気がさし軍から出てしまって、しがない賞金稼ぎ
になっていた.飛行艇とか水上飛行機が盛んなだった時代のお話し.

劇の前半では美しい飛行姿を魅せてくれるが、宿敵カーチスに機銃を撃ち込まれ、
ボロボロの姿で着水してしまう.それからがこの物語の真骨頂であろう.
北イタリアのマッジョーレ湖の近くの川べりの“ピッコロ社”へ持ち込み、修理する.

中小企業のピッコロ社の主任技師を務めるのは、なんと17歳の女の子フィオだ.
この修理において、ポルコの男尊女卑思想は完全に打ちのめされる.再設計も
女子なら、機の再生もなんと全員女性であったから.若い娘やお婆ちゃんたちが、
木を削り、板金を曲げ、サボイアS-21を生まれ変わらせていく.
こんな女性権利確立みたいな思想が嬉しい.

飛行機好きとしては、この時の新機体に盛り込まれたNACA翼型や、シュナイダー
カップで優勝した12気筒エンジン(ヘッドにはGIBURIの文字が…)とかが遊び心を
くすぐる仕掛けに酔ってしまう.ちなみにシュナイダー・カップとは当時イタリア・

英・米で開催されていた水上飛行機のスピード・レースの名前だ.

そんな、メカや飛行機ヲタク部分を除いても、本作のエンタメ性は別な部分に
ちゃんと存在する.アドリア海のエースと呼ばれた英雄マルコ・パゴット大尉が
なぜ豚に変わって、ポルコ・ロッソとなったのか? 真の物語が隠されている.

軍人として活躍した彼だが、戦争により人間に失望し自らの顔を呪いで豚へと
変えたと説明されているが、部分的に散りばめたエピソードからその経緯は
読み取れるのだ.
 

 

 

 

幼なじみジーナへの淡い恋心と失恋と、親友とジーナの結婚.その親友と戦った想い出.
作戦中にその親友を失ってしまった後悔.未亡人にしてしまったジーナへの想い.
戦争による別れと人間への失望から、自らを豚に呪いで変えてしまったのだ.

マルコ・パゴット大尉が空の彼方に消えて逝く仲間達を無音で見送るシーンは
胸打たれる.まさに空飛ぶ幽霊船たちのようなシーン.空で散って逝った仲間達に
逝き遅れてしまった自分への失意.それでも死を前にして生きたい!と願ってしまう
自分自信への葛藤は観ていても胸を打つ.

そんなドラマチックなストーリーがあるにも拘らず、それらは物語の裏側に
隠されている.そして豚となった後でもファシストを嫌い、国家や民族に縛られず、
自らの名誉の為だけに空を駆ける彼は次第に有名に、そして尊敬される身に
なっていた.

そんなポルコを倒して名声を手に入れようと、イタリアへとやって来たアメリカ人
のドナルド・カーティスという若き天才パイロットや飛行機造りに情熱を燃やす
天才技術者:フィオの熱い情熱の影響を受けて、厭世的なポルコは変わっていく.

おっさんとなった豚を描いた作品だが、その本質は新しい時代を生きる若者たちへ
のエールなのかもしれない.だからこそ、この物語は全てが終わったとおっさんが
思い込んでいる時代が舞台なのだろう.

ポルコやジーナが失ってきたものを思い涙を流し、新しい時代への希望に胸を
躍らすことが出来る、真に大人の為のアニメだと思う.子供向けでは決して無い.

青い空にポツンと浮かぶサボイアS-21の赤.
こんな素敵な映像を一度大画面で観たいなぁ….



[副長日誌補足]


そんな「紅の豚」愛が高じて、食卓に飾っている手ぬぐい.

 


 

 

加えて、愛して止まない「サボイアS-21」のプラモデル.

もちろんカーチスに撃ち落とされる前の前期型と、

再生された後期型の両方だ.
 

 


 

 

引退したらゆっくり作ろうと思っていた.
もう引退しちゃったし、老眼が進む前に
作らなきゃね…(汗).