映画「ぶあいそうな手紙」 | チャコティの副長日誌

チャコティの副長日誌

主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:Aos olhos de Ernesto
制作年:2019年 制作国:ブラジル 上映時間:123分

 

市内でゆっくりランチを食べて、再び柏キネマ旬報シネマに戻る.
日曜2本目の作品は珍しいブラジル製の人間ドラマ.本年劇場観賞92本目.

手紙の代読と代筆を通して交流を深めていく老人と娘の姿を、おかしくも
温かく 描いたブラジル発のハートウォーミングストーリー.

ブラジル南部のポルトアレグレに暮らす78歳のエルネスト.隣国ウルグアイから
ブラジルにやって来て46年になるエルネストは、頑固で融通がきかず、
うんちく好きの独居老人だ.

老境を迎え、視力をほとんど失ってしまったため大好きな読書もままならなく
なってしまった彼のもとに一通の手紙が届く.手紙の差出人はウルグアイ時代
の友人の妻だった.

手紙が読めないエルネストは、偶然知り合ったブラジル娘のビアに手紙を読んで
くれるように頼む.手紙の代読と手紙の代筆のため、ビアがエルネストの部屋に
出入りするようになるが…….

主人公エルネスト役をウルグアイ映画「ウィスキー」に主演した名優ホルヘ・
ボラーニが演じる.ブラジル・サンパウロ国際映画祭批評家賞、ウルグアイ・
プンタデルエステ国際映画祭では観客賞と最優秀男優賞を受賞.

以上は≪映画.COM≫から転載.
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主人公エルネスト:ホルヘ・ボラーニは78歳.視力がかろうじて残るだけだが、
知性と教養に溢れる老人.若い頃は政府おかかえのカメラマンだったらしい.

隣人ハビエルと老人同士のユーモアのある洒脱な会話を交わす一方、つつましい
暮らしでさえ脅かすブラジル政府の福祉切り捨て政策もチクリと皮肉る.

街の若者たちは定職がなく生活が安定せず、老人たちと同様に若者たちに
も不安が広がっている.そんな中で貧しい老人エルネストと貧しい23歳の女性
ビア:ガブリエラ・ポエステルが出会い、互いの人間性を探り合いながらも
ささやかな幸せの時間を楽しむ.

エルネストには多くの経験と思い出があり、人生のいくばくかの真実は承知している.
ビアは五感がよく働き、様々な知識や教訓を吸収できるし、最新の電子機器に
関してはエルネストよりずっと詳しい. 孫への動画を撮って送ってくれたりもする.



 

 

昔の恋人ルシア(友人の妻)からの手紙の代読と代筆によって、ビアの好奇心
からルシアとエルネストの関係が少しずつ明らかになる展開と、頑固な独居老人
エルネストが天真爛漫なビアに振り回されながら心の扉を少しずつ開いていく様が
楽しい.

人のお金をくすねるなどチョイ悪だったビアがエルネストの優しさと人柄に触れる
ことで、 徐々に、正直に真っ直ぐに生きることを選択していく様も描かれて、
ビアの成長物語 でもある.
老人と若者が互いに影響し合い変化していく…そこが素敵だ.

当初はこの老人と若者といった対照的な存在と関係性で進行するかと思いきや、
それは、あくまでそれも人と人との繋がりの一例に過ぎず、エルネストを囲む人たち、
息子や隣人の親友、そして元恋人などいろんな人との繋がりを描く手腕も見事.

それぞれ形は違えど、大事にそして互いを思い合う関係性の描写が非常に
美しいのだ. スペイン語とポルトガル語が飛び交うラテンバリバリな話なのだが、
そんなラテン・ テイストよりも随所で引用される詩や小説の断片にラテン文学の
香りがただよい、 極めて文学的な印象に満ち満ちている.

特にウルグアイの詩人マリオ・ベネデッティの叙情詩『なぜ我々は歌うのか』を
エルネストが朗読するシーンは圧巻の迫力.同じ詩に音楽監督のレオ・ヘンキン
がメロディをつけた曲のLPをかけるシーンも優雅さがあふれていた.

邦題の「ぶあいそうな手紙」は考え過ぎの邦題.これで観客動員に損をしている
であろう(笑).

去っていこうとするビアにエルネストが最後の手紙として代筆を頼む.
そのあて先は、ビアではなく、元恋人のルシアでもない.では誰に??

その意外性の結末と供に感じる爽快感に大満足.
副長個人的には、今年一番好きな作品かも….



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