雨すら寒い昼 | 早く老人に、なりたい。~涙は枯れない

早く老人に、なりたい。~涙は枯れない

あれから、もう16年。
決して早くなんてなかった。
でも、15年が過ぎる。
一日も忘れるなんてなかった。

先の見えない棘の途を、
どれにも縋れず、
だれにも語れず、
あてなき彷徨う。

雨。

やっと梅雨らしい日。


「ミコって、雨降るとウキウキしてるよね」


て、よくチャマに言われた。

なぜか分からないけど、窓の外から雨音が聞こえてくると、パッとカーテンを開けて外を確かめる。


「雨だ」


半分窓を開けると湿った空気が中へ入る。

だいたい僕はその辺りからきっと無表情になっている。

それは、雨音が湿った空気と一緒に体全体を包み込む瞬間だからだ。

無数の雨が葉っぱ一枚一枚にあたる、それによって葉っぱは動き空気が移動する。

その一連の動きで風ができる。

そしてその風が僕を包むんだ。


横殴りの雨も好き。

どの辺りの街の空から斜めに降ってるのかなぁ?て。

無風の真っ直ぐ降る雨も好き。

どこにも邪魔されないまま真っ直ぐ。

それこそ無数の雨を感じる。

まるで糸のよう。


昔、まだ20歳くらいの頃、広島の友達のとこへ遊びに行った時、視界を遮るほどの真っ直ぐ降る雨を見たことがある。

その時も僕は窓に肘をついて時間を忘れてじっと見ていた。


「ミコって、雨降るとウキウキしてるよね」


「チャコは雨嫌ぁ~い、どこにも出掛けられないから」


と言いながらも休みの日は雨が降ろうが車で出掛けた。


きっと僕が雨を好きなのは、どこにも出掛けないで部屋でじっとして過ごすのが好きだからだと、チャマは思ってたに違いない。


僕もなんで雨が好きなのかは分からないけど、きっと6月生まれだからだろうかと漠然と思う。


TikTokで流れてきた短い映画に惹かれて、最近ヤフオクからレンタル落ちのDVDをよく買う。

一枚200円とか300円とか。

中には送料無料の50円とかもあるよ。

気になって観たくなって買うんだけど、ほとんどハズレはないかな。


僕は「ダニエル・クレイグ」の007シリーズが大好きで、それらはDVD化されると通常の値段で買ってた。

それが、なぜだかTikTokで流れてきた007を「あれ?これ観たかなぁ?」と調べたら、なんと言うことでしょう!購入しておりませんでした!

それも最後のじゃなくて、途中の!


「スペクター」


速攻でヤフオク探して買いました。


いろんな映画が流れてくるんだけど、最近「ん!」て思ったのは、トム・ハンクスの映画。

僕はトム・ハンクスも大好き。

前にも話したけど「BIG」からの大ファン。

内容的に惹かれず観ていない映画もあるけど。

この前、衛星放送でやってた「マネーピット」は面白くなかったなぁ。

スピルバーグなのに。


「ん!」と思ったのはトム・ハンクスは少ししか映らなかったんだけど、子供が冒険する内容ぽくて面白そうだなぁと。

で、買いました。

200円で。


冒険ものってワクワクするよね。


ドリンク用意して、お菓子も用意して、部屋の灯りを消して、ソファに全体重を預けて。

始まりました。


・・・・・ん?

冒頭から意味が分からなくて。

ボヤけてるけど、スローでくるくる体が回ってたり、顔のアップもボヤけてて、でも、この顔はトム・ハンクスだよなぁ?


多分最初の10分くらいはのみ込めなかった。

画面の左側に小さく映っているテレビがあって、その小さくしか見えないテレビ画面に中継されていた映像を、僕は知っている。

そこから、記憶が急いであの日を見つけた。

忘れもしない、日本時間はたしか真夜中だったはず。

ずっと、その生中継を僕は観ていた。

やっとのみ込めて、深く座ってたソファから上半身だけ起き上がった。


「ヤバい!見当違いもいいとこだ!」

「コメディとか冒険ものでもありゃしない!」


【9.11】


あの日の映像だった。

学校を意味も分からず早退させられて、部屋に入り留守番電話の録音を聞く少年。

それは、トム・ハンクスの声。

その父親の緊迫した声と言葉。

テレビ画面を見ながら留守番電話の録音を聞きながら、だんだんと音と画像がリンクしてゆく。

そして又電話が鳴る。

でも怖くて受話器を取れない少年は、録音されてゆく声を聞く。

画面の爆発の瞬間に父からの電話が切れる。


冒頭のスローなくるくる体が回ってたり顔がボヤけた映像は・・・爆破したそのビルから落ちて行くトム・ハンクスだったのだ。


僕はもう画面に釘付け。


ネタバレなので、この先は内緒。


「ものすごくうるさくてありえないほど近い」


こんなタイトルじゃコメディかなと思っちゃうよ。

それに、トム・ハンクスだし。


観て良かった。

僕はこの映画、きっと何度も観るだろう。

ジョナサン・サフラン・フォアという人の小説で、実話とはどこを探しても無いけど。

あの日、悲しみのどん底に落とされた人の中には同じ思いをした家族はいるかもしれない。


見つけたひとつの鍵から始まる、少年のそこからの葛藤。

母親も辛いけど子供を守らないといけない。

悲しすぎました。


機会があったら観てね。


チャマの命日が過ぎて、僕の誕生日を過ごすと、ママちゃんの命日。


今日は、うすらさむいひる。


晴れるといいなぁ。

あの日みたいに。