とんと昔あったずま
昔々ある村に名主がおって、その名主にたいそう美しい娘がおったそうな。
その娘は年頃になってますます美しくなり、さまざまなところから婿の話があったのに、嫌がって話を受けなかった。
ある日の晩、一人の若く立派な侍が
「旅のものですが、泊まるところがないのでどうか一晩泊めていただけないでしょうか」
と頼みに来て、名主はかわいそうに思い泊めてあげることにした。
夕飯のとき娘にも挨拶させていたところ、若者はじっと娘を見つめていた。
そして、次の朝早く風のように帰って行った。
その後2,3日経つとまたその若者が訪れ、また泊めてやり、
何度も若者が泊まりにくるようになると、娘と若者はいつの間にかできて夫婦のようになってしまい、それでも若者は朝になると家人が起きる前に名主の家をたち、誰も朝に帰って行く若者の姿を見たものはいなかった。
そうこうしているうちに、娘の腹が大きくなってきて、だんだん娘の顔色が青くなってくる。
娘のおっ母が心配して、
「どうも、あの侍は怪しい」
と侍の正体を探ろうと、
「侍が帰る前、着物のすそに糸を縫い付けておけ」と娘に言いつけた。
翌朝、おっ母が糸をたどっていくと、糸はどんどん山のほうに入っていき、大きな岩の陰の洞穴の中に続いている。
その穴の中から、二人の話し声がして、おっ母はおっかないのを我慢して近づいて聞き耳をたてた。
「人間を騙そうっていってもそれは無理だべ」
「いやいや、大丈夫だ、俺はあの娘の腹に子どもをいっぱい作ってきたから、俺たちが死んでも子どもは生きるから心配いらねえ」
「いやいや、人間は利口だから、菖蒲と蓬を入れた湯に娘を入れられてしまうと、子どもはみんな流れて腹から出てしまう」
「うるせえ、何を言う、それより俺の胸に針が刺さって死にそうだ、苦しいうんうん」
と苦しがっていた。
それを聞いたおっ母はたまげて、うちにがらがら(急いで)帰ると風呂を沸かし、蓬と菖蒲を入れて娘を風呂に入れたら、娘の腹からちっちゃい蛇がもろもろ(たくさん)出はってきた。その蛇をみんな殺してしまうと、娘の顔色は良くなり、元のようになって元気になったそうな。
娘は隣村からいい婿を貰い、幸せに暮らしたそうな。
それ以来、村では五月の節句になると、菖蒲と蓬を風呂に入れたり、軒先に刺すようになったそうな。
どぅーびんと
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箸墓神話などに見られる「蛇の夜這い」と、「鬼が追ってくるのを菖蒲で撃退」する五月の節句縁起話をミックスしたような、珍しい民話だと思います。村山地方の昔話です。
千歳山には私が小学校の頃から「女の子が山で小便をすると、蛇が入って中で噛み付く」という恐怖な都市伝説があったのですが、昔から人はそのような「蛇が体内に入り込む」恐怖を覚えていて語り継がれていたのかもしれませんね。
