捨てるものと、捨てられないもの。
分別はいつも難しい。
ゴミ出しの日の朝、袋を結ぶ手を止めて、ふと封じ込めたはずの“思い出”が顔を出す。使わなくなったマグカップ、読みかけのまま放置されたノート、もう似合わなくなった服──ただの物なのに、触れると胸の奥がざわつく。
「これ、いつ買ったんだっけ」
「そういえば、あの頃は…」
思い出は軽い顔をして寄ってくるのに、手放そうとすると急に重たくなる。
捨てる=裏切りみたいに感じてしまうのは、きっとその物に宿った“当時の自分”まで捨てるように思えるからだ。
でも一方で、持ち続けることもできない。
今の自分にはもう必要ないのに、ただなんとなく、そこにあるだけ。
それでも「まだ取っておこうか」と迷ってしまうのが、人の弱さであり、優しさでもある。
結局、袋の口を結ぶまでに何度もため息が漏れる。
物を捨てる行為は、過去と現在の折り合いをつける儀式みたいだ。
今日もまた、思い出の重さを抱えながらゴミ置き場へ向かう。
スッキリしたような、少しだけ胸が空いたような、そんな不思議な朝になる。
捨てることは、忘れることじゃない。
前に進むための、小さな身軽さを手に入れるだけなのだ。













