2月14日
バレンタインデーの日がやってきました。
この日先生が大阪にやってきます。
お昼過ぎに 約束した場所で逢うことになっていました。
私は朝早くから起きて
部屋の片付けや 色々な準備に余念がありませんでした。
今日着てゆく洋服の用意
夜に部屋で軽くつまむ 夜食の準備
部屋のお掃除に ベッド周りの模様替え
(これは 前の週に大がかりに行いました)
雑誌のメイク特集を食い入るように読んだりしているうちに
あっという間に11時が過ぎていました。
約束した時間は 12時半なので
そう慌てることもないのですが
梅田に出るついでに 大きな書店に行きたかったので
もうそろそろ 家を出る用意をした方がよさそうです。
今でもそうなのですが
私は書店に入ると 時間を忘れてしまうのです。
色々なジャンルの本を手にとって ぱらぱらとめくるうちに
自分が何時にここへ来たのか
ここでどのくらい時間を費やしたのかを
見事に忘れ去ってしまうのでした。
紺色のコートは 高2の時に父が買ってくれたものでした。
下には白いニット
ピンクのマフラーは 先生が選んだものです。
部屋の鍵やできあがった煙草ケースの入った
少しだけ大きめの鞄を持って外に出ました。
駅に向かう足どりが いつもより数倍軽いです。
最後に逢ってから 1ヶ月が経った程度だし
電話では頻繁に話をして 声を聞いているのですが
それでも先生の顔を見るのは楽しみでした。
今日は ずっと一緒に行きたかった場所
空中庭園に行けるのですから
楽しみなことは いっぱいありました。
電車の中で ほころぶ私の顔は
見る人が見たら「この子大丈夫?」
そう思えるものだったと思います。
それでも 梅田で書店に入り
文庫本を色々探しはじめると
先生のことを忘れて 夢中になっていました。
好きな作家さんの新刊が出ていたのでそれをキープし
旅行書や ハード本の新刊コーナーもチェックします。
かれこれ見て ふと時計を見ると
もうすぐ12時半になろうとしていました。
「うそ!」
嘘ではありません
先生に買ってもらったこの腕時計は
つけはじめて以来 ずっと正確に時間を刻んでいます。
私は急いで 文庫本をレジに持っていきました。
少し混んでいたレジで 会計をようやく済ませて
約束の場所へと急ぎました。
ようやく慣れてきた 地下街の人混みを通り抜けて
階段を駆け上がって 地上に出たところの
交差点を向こうに渡ったら 待ち合わせの場所です。
私の目は 長い赤信号の間で
その先にいる先生を見つけました。
ベージュ色のトレンチコートを着た先生は
贔屓目もあるのでしょうけれど 誰よりも格好よくて
煙草をくわえた横顔を見ていると
自分の胸が キュンとなるのがわかりました。
ようやく長い信号が 青に変わりました。
待ちきれずにうずうずしていた私は
真っ先に駆けだして 先生の元へと急ぎました。
人が駆けてくる足音に気付いたのでしょう。
先生がこっちを向いて 手招きをします。
「カナ こっちだよ。」
息をきらして走ってきた私を(オーバーですね)見て
先生が笑っています。
「ゴメンなさい だいぶ待った?」
「ううん 俺も今来たところだ。」
先生の言葉に 私は先生の右手を取りました。
冷たくなっています。
「嘘 ちょっと待ったんでしょう?
遅くなってゴメンね・・・」
両手で手を挟んでこするのは 先生の真似です。
「ありがとな・・・ でもホントにそんなに待ってないんだよ
でも 腹は減ったなぁ
昼メシ 何にするかなぁ?
カナは どんなものが食べたい?」
「私? 私は・・・ 篤史さんの好きなものにつきあうよ。」
私の言葉に 先生は少し甘えた風に
「じゃあ 俺の食いたいものでいい?
俺ね 今すごく行きたいところがあるんだよ。」
そう言います。
何処かと聞けば 回転寿司なのでした。
回転寿司なら 好きな量を食べればいいので
少食の私と 大食いの先生でもOKです。
先生は 安くて美味しいと評判のお店を見つけていたみたいで
メモを片手に 道を歩きはじめました。
「カナ ほら・・・」
いつものように 肘をくいっと動かすサインに
私は先生の腕をつかまえるのでした。
「逢いたかったよ・・・」
私の言葉に 先生の顔がぽっと赤くなりました。
「カナ・・・ だめだよ。」
何が駄目なのでしょう 私にはわかりませんでした?
「駄目? なんで?」
不思議に思って先生に訊くと 先生が恥ずかしそうに笑います。
「おっぱいが当たってる 腕に当たってる・・・
俺だって逢いたかったよ
1ヶ月ぶりに逢って そんなこと言われたら
メシ食いに行くより 他のところに行きたくなっちゃうよ。」
私には先生の言葉の意味が
はじめはなんのことだかわかりませんでしたが
少し時間が経ってわかってきました。
「だめ! まだだめ・・・」
「まだ?」
自分で言った事が恥ずかしく思えてきました。
「くるくる回るお寿司 楽しみね。」
恥ずかしいのを隠すように 話を逸らしました。
「ああ 楽しみだね。」
先生がくすくす笑いながら答えます。
「俺 今日はハマチが食いたいなぁ
脂ののったサーモンもいいなぁ・・・」
評判のお寿司やさんの前には 行列ができていました。
驚く私に 客の方の回転も早いから
そう待たずに席に着けるだろうと言う先生の読み通り
5分程度で 席に案内されました。
初めて先生と並んで食べる 回転寿司記念日でした。