四月下旬になった。
里の雪はもうほとんど解けてしまっている。
田畑からは蒸気がたちこめ、村はずれにあるタバイの山はかすんでいて、良くみるとまだまだ白いまだら模様だ。
きこりの又造が三ノ沢沿いの細い道をのぼっている。
わらで編んだ長靴がサクサク、音を立てる。
物音におどろいた野鳥がバタバタと羽音を立てながら木の葉の間を空へと飛びだっていく。
彼は根っからのこの在所の子、幼い時から祖父の新左衛門につれられ、山菜をとったりうさぎと遊んだりした。
今はもう五十がらみになり、猟の腕も名人芸だ。
(タバイの雪がすっかり解けりゃ、もうすっかり春なんだがな。おっと喜んでばかりはいられねえ。気の早い、腹のすかした熊五郎のやろうがいつとび出して来るやも知れねえて……)
鈴をいくつも腰にぶらさげている。
歩くたびに、チャリチャリンと鳴った。