(7)感染後ME/CFS:NIHの所内研究よりー慢性疲労症候群に関する米国の動き | 「慢性疲労症候群(ME/CFS)」と「制度の谷間」界隈の備忘録

「慢性疲労症候群(ME/CFS)」と「制度の谷間」界隈の備忘録

慢性疲労症候群(ME/CFS)・線維筋痛症(FM)患者で、電動車椅子ユーザー。医師診断PS値8ですが、感覚的には「7寄りの8」。
Twitterでの、情報共有に限界を感じ、暫定的にブログを立ち上げました。

更新できる気はあまりしないので、不要になったら閉鎖するかもしれません。

引き続き、「アメリカでの慢性疲労症候群(筋痛性能脊髄炎/全身性労作不耐疾患)の国を挙げての取り組み」についてです。

今年2月のCDC病例検討会の最終演者
アヴァンドラ ナス医師
「感染後筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群:NIHの所内研究より」

のプレゼン資料部分です。


重要と思われる点は、下記になりますが
ぜひ原文を全文ご覧いただければ幸いです。

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・感染とME/CFSの発症との関係や、本疾患患者における興味深いが一貫性には欠ける様々な免疫異常を明らかにしてきた膨大な文献は、免疫調整に関するさらなる研究の論拠を提供する(※口頭説明部分)

・しかし、これまでの研究は(ノルウェーのリツキシマブの研究) 小規模で、患者の免疫プロフィールが計測されていなかった(※口頭説明部分)

・ME/CFS 患者は、様々な誘発因子と関連している可能性があり、今回は「発症時にウィルス性疾患にかかっていたことが明確な患者群に焦点をあてて研究」する。これらの患者達は、非常に類似した免疫プロフィールを持っている可能性があるため(※口頭説明部分)

「感染後ME/CFS」という概念の全体仮説ウィルス感染が引き金となって感染後ME/CFSを発症し、その結果免疫介在性脳機能障害が起きる

・そのための研究を下記手順にて行う
 ・第一段階:この疾患の表現型と病態生理を明確にするための横断研究
 ・第二段階:有用なバイオマーカーを実証するための縦断的研究
 ・第三段階:第二段階で同定されたバイオマーカーを標的にした初期段階の介入試験(※訳注:人体へ薬を投与しての試験)

・感染後ME/CFS患者の選択基準:
急性発症感染症の過程を示す記録
6ヶ月以上 5 年未満持続する疲労感
1994年の症例定義カナダ合意基準の両方を満たす

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なお、下記に出てくる「リツキシマブの論文」について、若干の注釈を…。

リツキシマブは日本では「抗がん剤」として知られていると思います。
ここには出てきませんが、NIHが治験に取り組むとしているアンプリジェン「抗ウイルス薬」「HIVに使われる薬」としては多少知られているでしょうか。


かねてより海外では、慢性疲労症候群患者に対し、これらの薬の治験が行なわれてはいます。

リツキシマブやアンプリジェンといった薬は、薬価も高く、薬ですので当然副作用もゼロではなく、また薬の性質から治療しても再発の懸念も生じうるものになります。海外においても、そういった点を懸念する声はあるようです。


が、副作用が強い懸念があるから、薬価が高いから、特殊な用途に使われる薬だから…こうした治験に意味がない、のか??というと、そうではないわけです。


そもそもアメリカが国をあげて研究を進める、と言っている中で、その中核的研究としてCDCから発表を行っているのには、それなりに論拠があるわけで(それが「絶対」とは言いません。医療の研究とはどれを取ってもそういうものだと思いますが)。

リツキシマブは「リンパ腫(がん)を併発したCFS患者でリツキシマブ投与した患者が、CFSの主症状が軽減した」ことから研究が進み、再度注目を浴びたわけですが。

2015年の研究では、「リツキシマブ投与のCFS患者28人中、18人(64%)に臨床的有意な応答があった(効果が見られた)」さらに「3年後の追跡調査で、18人中11人が臨床的寛解状態(一時的に落ち着いている状態)が継続」などの研究結果があって、今注目されています。

これまでのリツキシマブの研究では、免疫等のデータがあまり網羅的には取られていなかったようでした。

そこで今回の研究では、免疫系はもちろん、神経・内分泌系また精神面等の検査をできるだけ網羅的に取り、「リツキシマブが、ME/CFS患者のどのような人にどのような仕組みで効果が発生しているのか」を明確にしようという、より緻密な計画のもとに進められようとしている点で、大きな注目を集めています。

さらに、一般的にCFSとの鑑別が難しいとされる「機能性不随意運動」の患者さんも同時に比較対象として研究されます。今回のアメリカの発表で、改めて「CFSは身体疾患である」として、研究が進められるわけですが、こうした研究でどのような違いが出るのかあるいは出ないのかという点も注目に値するのではないでしょうか。

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2月のCDCの発表を見て、過去のノルウェーの研究でどのような結果が出ていたのかなどを、日本語で紹介できたら…と思っていたのですが。

なかなか私自身の体調が上がらず、訳をつける余裕がありませんでした。


そんな中、NPO法人筋痛性能脊髄炎の会(ME/CFSの会)さんより、医学監修がついた翻訳文のリンク、ならびに掲載・転載の許可をお願いしたところ、こころよく許可をいただきました。(御快諾いただき改めて感謝いたします。)


ひとまずリンクを掲載いたしますので、ぜひ本記事とあわせてお読みください。(クリックで各ページに移動します)

■アヴァンドラ・ナス医師があげた、過去のリツキシマブの論文の要約
2016-5-15リツキシマブの論文の要約を翻訳 (両論文の概略記事)

2論文の要約(pdf)(プロス・ワン 2011年10月「CFSにおける抗CD20抗体リツキシマブを用いたBリンパ球枯渇療法の効能」ならびに、プロス・ワン 2015年7月「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群におけるBリンパ球枯渇療法」)


■アヴァンドラ・ナス医師のプレゼン(口頭発表内容含む)
米国 NIH 国立神経疾患・脳卒中研究所主任研究員のナス先生による 疾病予防管理センター(CDC)の病例検討会での講演


また、リツキシマブ等の研究がなされることが、慢性疲労症候群の診断・治療において、どういった意味を持つのか、という点については、下記の言葉が伝わりやすいのかなと思います。

2016-4-14自民党がmecfsの勉強会開催
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所免疫研究部部長 山村隆先生他のコメントより
"現在行っている研究では、どうしてリツキシマブがよく効くのかを科学的に解明したいと思っています。他の免疫系の病気に有効な薬が、ME/CFSに効くかどうかも研究したいですし、研究を進める中で、全く違うもっと良い創薬のシーズが得られないか、さらには新たな科学技術を発展させられないかと考えています"


本日づけの毎日新聞の記事にも掲載されましたが、
難病指定をされるにはもちろん、
多くの医師の方に診断されるようになるためには
「客観的な診断基準の有無」が重要になります。
http://mainichi.jp/articles/20160803/ddl/k21/010/425000c


そういった見地から、今後も国内外で幅広い研究が行われ、
1日も早く客観的診断基準ができることを願ってやみません。


そして軽度、重度問わず、日常生活に困難をきたしている患者さんはもちろん、
CFS専門医の診断が受けられず、困っている方、
患者さんのご家族・職場など周囲の方、
医療関係者のみなさんの困難が
少しでも軽減されてほしいと思います。

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CDC Public Health Grand Rounds
Chronic Fatigue Syndrome: Advancing Research and Clinical Education
2016年2月16日 CDC 公衆衛生グラウドラウンドセッション(病例検討会)
慢性疲労症候群:研究の進展と臨床教育


【4】アヴァンドラ ナス医師 国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS) 神経系感染セクション部長
「感染後筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群:NIHの所内研究より」
https://www.cdc.gov/grand-rounds/pp/2016/20160216-chronic-fatigue.html

https://www.cdc.gov/grand-rounds/pp/2016/20160216-presentation-chronic-fatigue-H.pdf (※pdf注意)




■ワークショップ「Pathways to Prevention(予防への道)」:ME/CFSにおける研究促進 (p.46)
アナルズ・オブ・インターナル・メディスン(米国内科学会発行 学術雑誌) 方針説明書
「予防への道」と題するワークショップ:ME/CFS の研究促進


■ME/CFSにおける免疫調整に関する研究の論拠(p.47)
プロス・ワン掲載の研究論文 
ME/CFSにおけるBリンパ球の枯渇療法 リツキシマブ維持療法の非盲検第二相試験
Øystein Fluge, Olav Mella et al. 2015年7月/Volume10/ Issue 7/e0129898
プロス・ワン(オープン・アクセス論文) 
CFSにおける抗CD20抗体リツキシマブを用いたBリンパ球枯渇療法の効能 二重盲検・プラセボ対照試験
Øystein Fluge, Olav Mella et al. 2011年10月/Volume 6/Issue 10/e26358


■感染後 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(PI- ME/CFS)(p.48)
総体的仮説ウィルス感染が引き金となって感染後ME/CFSを発症し、その結果免疫介在性脳機能障害が起きる

第一相:この疾患の病態生理を明確にするため、感染後ME/CFSの表現型を詳細に解析する横断研究を実施

第二相:第一相の研究で選ばれたバイオマーカーを縦断的研究において確認介入研究のための客観的最終目標を確定

第三相:第二相で確認されたバイオマーカーを標的にした免疫調節薬(※immuno- modulatory agent…リツキシマブは、米国では免疫調整剤と分類されている。日本では分子標的薬に分類)を用いた初期段階の介入研究の実施


■感染後ME/CFS研究 第一相(第一段階)(p.49)
目的1:臨床的表現型の定義
・病歴、理学的所見、全身の評価
・神経学的評価
・神経認知検査
・精神医学的評価
・疼痛/頭痛の評価
・専門医による感染症とリウマチ学的評価
・神経内分泌的評価
・疲労検査、運動能力


■感染後ME/CFS研究 第一相(第一段階)(p.50)
目的2:(運動前後の)疲労の基礎となる生理学の特定
・機能的MRI画像解析
・代謝研究
・経頭蓋磁気刺激
・自律神経機能


■感染後ME/CFS研究 第一相(第一段階)(p.51)
目的3:免疫とマイクロバイオーム※のプロフィール異常があるかどうかの特定

・培養T細胞刺激後の脳脊髄液と血液のサイトカインとケモカインのプロフィール
・フローサイトメトリー
・B細胞とT細胞のクローニングとT細胞抗原受容体シーケンス
・免疫グロブリンのプロフィール
・脳の抗原に対する自己抗体
・脳脊髄液のプロテオーム解析とメタボローム解析
・腸と口腔内のマイクロバイオーム
・血清トリプターゼ
・ウィルスの検出、 ヘルペスウィルスに対する抗体

※訳注 マイクロバイオーム:腸内細菌叢、口内細菌叢などの「人体にすむ微生物相」のこと。近年マイクロバイオームと様々な疾患の関連を調べる研究が進んでおり、慢性疲労症候群においても、研究がなされている。


■感染後ME/CFS研究 第一相(第一段階)(p.52)
目的4:生体外研究においての所見再現可能性の特定
・感染後ME/CFS患者のiPS細胞から作られた神経細胞において、機能的異常、またはミトコンドリア異常および電気生理学的特性があるかどうかの特定
<図の説明> 血液由来幹細胞→iPS細胞(人工多能性幹細胞)→神経細胞

・iPS細胞とiPS細胞由来の神経細胞に対する血清や脳脊髄液の影響
・感染後ME/CFS患者の細胞から作製された細胞をげっ歯類あるいはヒト化マウスの脳に注入した脳脊髄液または抗体が、疲労や行動障害をもたらすかどうかの確定


■プロトコール(研究実施計画)(p.53)
感染後ME/CFS患者の選択基準
急性発症感染症の過程を示す記録
6ヶ月以上 5 年未満持続する疲労感
1994年の症例定義カナダ合意基準の両方を満たす

研究対象集団
・感染後ME/CFS(n=40)
・健常者群(n=20)
・疲労感を伴わない持続性ライム病(n=20)
・機能性不随意運動(n=20)
※機能性不随意運動 参照情報
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3073765/
http://www.uptodate.com/contents/functional-movement-disorders



■研究者(p.54)
主任研究者:Avindra Nath
主任臨床研究者:Brian Walitt
執行委員:Elizabeth Unger(CDC)、Ian Lipkin(コロンビア大学)
患者の諮問委員:未定
研究協力者:Ana Acevedo、Silvina Horovitz、Joshua Milner、Jeffrey Cohen、Steve Jacobson、Leorey Saligan、Bart Drinkard、Eunhee Kim、Stephen Sinclair、Luigi Ferrucci、Mary Lee、Bryan Smith、Penny Friedman、Tanya Lehky、Joseph Snow、Fred Gill、Johnathan Lyons、Stacey Solin、David Goldstein、Eugene Major、Neal Young、Mark Hallett、Adriana Marques、Jay Chung、Wendy Henderson、Carine Maurer
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◯これまでの「慢性疲労症候群に関するアメリカの動き」の記事一覧

■最近の慢性疲労症候群に関する米国の動きー2015年度
・2015年2月 米国医学研究所(IOM)発表 "ME/CFSを超えて ー 疾患の再定義"
・2015年10月NIH、慢性疲労症候群(ME/CFS/SEID)の研究を促進すると発表
http://ameblo.jp/cfs-tanima/entry-12160438709.html

■2016年2月16日 CDC 公衆衛生グラウドラウンドセッション(病例検討会)
慢性疲労症候群:研究の進展と臨床教育
・検討会冒頭挨拶文
http://ameblo.jp/cfs-tanima/entry-12162043807.html

■最近の慢性疲労症候群に関する米国の動き(3)ーME/CFSの臨床症状
2016年2月16日 CDC 公衆衛生グランドラウンドセッション(病例検討会)
【1】チャールズ ラップ医師
「慢性疲労症候群の臨床症状」
http://ameblo.jp/cfs-tanima/entry-12163343428.html

■最近の慢性疲労症候群に関する米国の動き(4)ー慢性疲労症候群への公衆衛生的アプローチ
【2】エリザベス R. アンガー博士
「慢性疲労症候群への公衆衛生的アプローチ」
http://ameblo.jp/cfs-tanima/entry-12165786754.html

■(6)IOMとNIHの報告書からの学びー慢性疲労症候群に関する米国の動き
【3】アンソニー L. コマロフ医師
「IOMリポート及びNIHのPathways to Prebention(治療への道)からの学び」
http://ameblo.jp/cfs-tanima/entry-12180547821.html

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・CDC(アメリカ疾病予防管理センター)とは、アメリカ連邦政府の内閣機関、保健福祉省(HHS)の主要下部組織の一つです。

・各ページに記載しておりますが、当方は医療職ではないことをあらかじめご了承いただき、詳細はぜひ原典をあたっていただければ幸いです。