最近の慢性疲労症候群に関する米国の動き(3)ーME/CFSの臨床症状 | 「慢性疲労症候群(ME/CFS)」と「制度の谷間」界隈の備忘録

「慢性疲労症候群(ME/CFS)」と「制度の谷間」界隈の備忘録

慢性疲労症候群(ME/CFS)・線維筋痛症(FM)患者で、電動車椅子ユーザー。医師診断PS値8ですが、感覚的には「7寄りの8」。
Twitterでの、情報共有に限界を感じ、暫定的にブログを立ち上げました。

更新できる気はあまりしないので、不要になったら閉鎖するかもしれません。

このページでは、今年2月のCDC病例検討会の、第一演者、チャールズ ラップ医師による「慢性疲労症候群の臨床症状」のプレゼンを取り上げます。

海外で、慢性疲労症候群(CFS/ME/SEID)がどのような認識で広まろうとしているのか、現状ではあまり日本では報道されることがないため、このセッションはスライドをほぼ全文訳しました。

訳した後、念のためにすでに日本語にてあげられている専門家による解説文や、医療監修のついている文章などとつけあわせはしています。

とはいえ、当方は医療職ではないことをあらかじめご了承いただき、ぜひ原典をあたっていただければ幸いです。



重要な点は、下記の通りです。

なお、発症トリガーが感染症(72%)というのは、日本での報告よりは多いですが、人種による違いという以前に、国内外ともにそもそも「きちんと診断がついている人が少ない」という側面があると思われます。



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CDC Public Health Grand Rounds
Chronic Fatigue Syndrome: Advancing Research and Clinical Education
2016年2月16日 CDC 公衆衛生グランドラウンドセッション(病例検討会)
慢性疲労症候群:研究の進展と臨床教育


【1】チャールズ ラップ
「慢性疲労症候群の臨床症状」(pdf p.2-p.15)

https://www.cdc.gov/grand-rounds/pp/2016/20160216-chronic-fatigue.html

https://www.cdc.gov/grand-rounds/pp/2016/20160216-presentation-chronic-fatigue-H.pdf (※pdf注意)

https://youtu.be/0SnJy5AOSd8?t=4m21s
※上記ページ、YouTubeリンクは、共にCDCの公式ページです。

■千の名前を持つ疾患(p.3)
・ロイヤルフリー病 (※訳注 1955年,英国 Royal Free 病院で220人の看護婦に発生したことから)
・アイスランド病(※1948年にアイスランドのアークレイリで集団発生した)
・タパヌイフルー(※ニュージーランドでの集団発生)
・"ヤッピーフルー"(※1980-90年代、アメリカの富裕層に多く発生したことから)
・筋痛性能脊髄炎
・慢性疲労免疫不全症候群
・SEID(セイド) 全身性労作不耐疾患
 ・2015年にIOMが提唱した疾患名

■CFSの重要な特徴のすべてを示す臨床症状(p.5)
・労作不耐(軽い活動にも耐えられない)と衰弱性の疲労
・労作後の再発と倦怠感(具合の悪さ)
・睡眠障害の新たな発症
・認知の困難
・起立不耐症(めまいなど、起立時の立ちくらみ)
・症状の盛衰(症状軽減と悪化を繰り返すこと)
・全身インフルエンザ様筋肉痛、関節痛、または広範囲の体の痛み

■臨床症状(p.6)
・症状は数時間から数日かけて急性発症する
・患者の最大85%は、トリガー(発症の具体的なきっかけ)を報告:
 ・細菌またはウイルス感染(72%)
 ・外傷(4.5%)
 ・手術や出産(4.5%)
 ・アレルギー反応(2.2%)
 ・ストレス、感情的なトラウマ(1.7%)
・病気はよくなったり悪くなったりを繰り返す
・予測不可能な発症、および再発時は重症化
・成人患者のほとんどは、機能が発症前レベルに戻らない

■Comorbidities(合併症/並存疾患) (p.7)
・線維筋痛症
・過敏性膀胱、過敏性腸症候群(~85%)
・シェーグレン症候群(~85%)
・化学物質過敏(~67%)、光線・音・温度・感覚過敏
・消化管運動障害 嚥下障害・早期満腹感・吐き気などを単独または複合的に伴うもの(58%)
・関節弛緩症 エーラス・ダンロス症候群(12%–60%)
・セリアック病様障害、小麦・穀類・グルテン過敏
・腹骨盤腔痛
・血管運動性(アレルギー性/非アレルギー性)鼻炎
など
※関節弛緩症など、日本では並存があまり聞かれない疾患名も上がっています。

■基本的な臨床検査:(p.9)
・血算(CBC)および白血球数
・ナトリウム/カリウム、グルコース、BUN、クレアチニン、LDH、AST、ALT、アルカリホスファターゼ、総タンパク質、アルブミン、カルシウム、リン、マグネシウム
・TSH(甲状腺刺激ホルモン)、FT4(遊離サイロキシン)
・血沈速度および/またはCRP(全身性炎症のマーカー)
・尿検査

■予後(p.11)
大人
・最大40%まで改善しうる
・完治の中央値は~5%

子どもと青少年
・60%-88%が経時的に改善

■疾患管理(p.12)
・教育
・行動修正
・薬物療法
・非薬物療法

■薬物治療と非薬物治療(p.13)
薬物治療
・睡眠管理、疼痛管理
 ・可能であれば、麻薬性鎮痛剤を避ける(※訳者注:依存性、重い副作用を避けるため。急性の痛みや重度の痛みには使用することもあるとしている)
・(CFSの)症状と並存疾患を管理する

非薬物治療
・理学療法
・エプソム塩(入浴時に入れる)、ホットパックもしくはコールドパック、湿布薬、整骨治療、鍼灸治療

■活動性を保つ、しかし活動しすぎない(p.14)
・筋ストレッチからはじめ、関節可動域を広げる
・次にシンプルなレジスタンストレーニングを行う(軽量ウェイト、エラスティックバンド)
 ※レジスタンストレーニング:各種の抵抗荷重を用いて、筋力(筋量)および筋持久力の増強を図るトレーニング
・その後、特定のタイプの有酸素運動に移行する
 ・太極拳、ヨガ、ウォーキング、サイクリング、プール療法
・症状再発を避けるため、患者には活動を時間で制限する(5分/開始日)か、活動の反復数を制限することを奨励
・患者が過度の疲労を感じた場合には、活動時間または反復数を減らす

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※訳者注:このスライド内では触れられてないが、ラップ医師の講演時には、”最も重要なのは頻繁に休憩し、活動に制限を設けること”と述べている。
”積極的に運動することが重要だといろいろな所から聞いたかもしれない。実際には、運動をしすぎると症状が悪化するという科学的な証拠がある。大半の CFS患者は「無理してクラッシュ(倒れる)する」傾向がある。つまり動きすぎて、数時間あるいは数日、極度に衰弱してしまう。「無理してクラッシュする」ことを定期的に繰り返す人は良くならない。病気を良くするのに大切なのは、「エネルギーを節約する」ことだ。つまり自分のエネルギーの限界を知り、その限界を超えないことだ”

また、上記の活動性を保つためのアドバイスは「あまり重症ではないCFS患者向け」としている。重症患者のリハビリには「多くはリハビリも可能ではあるが、行うにあたり特別の努力が必要」として、医師の往診在宅での保健支援や介護支援、可動範囲を広げる・仰臥位に反して重力負荷をかける様な形の在宅リハビリなどの配慮の必要性をあげている。

また、「日本では重症患者が多い」とも述べている。

NPO法人 筋痛性能脊髄炎の会「チャールズ・ラップ先生の基調講演の詳録」(2012/11/4)P.9参照
https://mecfsj.files.wordpress.com/2013/02/dr-lappe381aee8ac9be6bc94e381aee5b08fe5868ae5ad90e69c80e7b582.pdf

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■ME/CFS臨床概要(p.15)
・小児および成人どちらにおいても発症しうる
・一般的に先行する医学的事象がある、その多くは感染症
・患者は、早期の総合評価と診断により恩恵を受ける
・疾患は生活の質に深刻な影響を持ちうるが、改善・回復も可能
・根治療法はない、しかし段階的運動療法やある種の薬物療法は利益になりうる

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