ようこそのお運びで。喪失の苦しみから目を逸らすため、自分を多忙に追い込んでいる日々です。

大河・藤原行成と清少納言①「仲良し」の関係

https://ameblo.jp/cfaon000/entry-12495527254.htm

◎京都府立植物園の紅梅たち「八重寒紅」「大盃」「未開紅」と「蝋梅」(2月上旬)

 

 

 

 

 

 

 

お題

「沈みしも 忘れぬものを こりずまに 身もなげつべき 宿のふぢ波」(源氏物語・若菜上)朧月夜をめぐる歌⑫

 

逢瀬の夜が明けてゆく。

 

朝ぼらけのただならぬ空に、百千鳥の声もいとうららかなり。花はみな散りすぎて、なごりかすめる梢の浅緑なる木立、昔、藤の宴したまひし、このころのことなりけりかしと思し出づる。年月の積もりにけるほども、そのをりのこと、かきつづけあはれに思さる。中納言の君、見たてまつり送るとて、妻戸押し開けたるに、たち返りたまひて、「この藤よ、いかに染めけむ色にか。なほえならぬ心添ふにほひにこそ。いかでかこの蔭をば立ち離るべき」と、わりなく出でがてに思しやすらひたり。・・・(中略)・・・なごり多く残りぬらん御物語のとぢめは、げに残りあらせまほしきわざなめるを、御身を心にえまかせたまふまじく、ここらの人目もいと恐ろしくつつましければ、やうやうさし上がり行くに、心あわたたしくて。廊の戸に御車さし寄せたる人々も、忍びて声づくりきこゆ。人召して、かの咲きかかりたる花、一枝折らせたまへり。
 ☆沈みしも 忘れぬものを こりずまに 身もなげつべき 宿のふぢ波
いといたく思しわづらひて、寄りゐたまへるを、心苦しう見たてまつる。女君も、今さらにいとつつましく、さまざまに思ひ乱れたまへるに、花の蔭はなほなつかしくて、
 ☆身をなげむ ふちもまことの ふちならで かけじやさらに こりずまの波
いと若やかなる御ふるまひを、心ながらもゆるさぬことに思しながら、関守の固からぬたゆみにや、いとよく語らひおきて出でたまふ。その昔も、人よりこよなく心とどめて思うたまへりし御心ざしながら、はつかにてやみにし御仲らひには、いかでかはあはれも少なからむ。

・・・夜明けの美しい空に、色々の鳥の声もたいへんうららかである。桜の花は皆散り過ぎて、そのあと霞んでいる梢の浅緑色の木立、昔、(右大臣が)藤の宴をなさったのも、今頃のことであったよ、と思い出される。あれから多くの年月が経過したことも、その当時のことも次々としみじみ思いなさらずにいられない。中納言の君(=朧月夜の女房)がお見送り申し上げるというので、妻戸を押し開けたところへ、また戻っていらして、「この藤よ、どのように染めた色であろうか。やはり言いようもない位、風情がある美しさだ。どうしてこの藤花の蔭を立ち去ることができようか」と、どうしようなく帰りにくく、ためらっていらっしゃる。・・・(中略)・・・尽きせぬ思いが多く残っているに違いないお二人のお話の最後には、本当に名残を惜しませてあげたいものであるけれど、ご身分柄、思い通りに振る舞うことはできず、多くの人目もひどく恐ろしく、慎重にしなければならないので、日がだんだんと上がってゆくのに心が落ち着かなくて。廊の戸口にお車を寄せている供人たちも、そっと咳払いをし催促し申し上げる。人をお召しになって、あの咲き垂れている藤花を、一重だ折らせなさった。

 ☆沈みしも 忘れぬものを こりずまに 身もなげつべき 宿のふぢ波

たいそう思い悩みなさって、高欄に寄りかかってすわりなさっているのを、(中納言の君)は、お気の毒にと見申し上げる。女君(=朧月夜)も、いまさらにひどく気が引けて、様々に思い乱れなさっているが、美しい花(=源氏)のもとはやはり心ひかれて、

 ☆身をなげむ ふちもまことの ふちならで かけじやさらに こりずまの波

とても若々しい(お忍びの逢瀬という)御ふるまいを、源氏自身も許されぬこおとと思いなさりながらも、関守の監視もきつくない油断からであろうか、次の逢瀬を十分に約束なさってお出になった。あの当時も、人よりこの上なく執着なさっていたご愛情でありながら、わずかな逢瀬で終わってしまった二人の仲では、どうして思いも少ないことがあろうか。・・・

 

夜明け、美しい景色を見ていた源氏は、二人が出会った藤花の宴が催されたのもこの時期だったと思い出される。朧月夜の女房の中納言の君が源氏の見送りをするが、源氏は藤(=朧月夜)のそばから離れられない様子である。身分柄、人目も気になるので日が上るにつれ心慌ただしい。供人も急き立てる。源氏は藤花を一枝折り、二人、歌を交わす。二人とも別れがたく、朧月夜が今、一人住まいなのかこつけて、よくよく後の逢瀬のことを約束してから、源氏は帰途についた。

 

源氏物語六百仙

◎和歌を取り出す。

☆沈みしも 忘れぬものを こりずまに 身もなげつべき 宿のふぢ波

・・・あなたのために須磨の地で沈淪の日々を過ごしたことも忘れてはいないのに、懲りることなく身を投げ出してしまいそうです、この家の淵に。――命を投げ出してしまいそうです、美しいあなたに。――・・・

①「沈みし」・・・須磨流謫で沈淪したこと。

②「こりずまに」・・・失敗に懲りずに。当該歌では「ずま」に「須磨」を掛ける。

『古今集』

「631 こりずまに 又もなきなは たちぬべし 人にくからぬ 世にしすまへば」

『一条摂政御集』

「129 ふゆのよの そでのこほりも こりずまに こひしきときは なほぞなかるる」

③「ふぢ波」・・・「ふぢ」に「藤」と「淵」とを掛ける。当該歌では「淵」は「沈み」「身を投げ」と縁語関係、また「ふぢ波」(風になびく藤花)は美しい朧月夜を暗示。

『後撰集』

「125 限りなき 名におふふぢの 花なれば そこひもしらぬ 色のふかさか」

 

 

☆身をなげむ ふちもまことの ふちならで かけじやさらに こりずまの波

・・・身を投げ出そうとおっしゃる淵も本当の淵ではありませんので、――命を投げ出そうとおっしゃることは本当のこととは思えませんので、――性懲りも泣く袖を濡らすことなど決して致しますまい。・・・

①「ふち」・・・「淵」に「藤」を掛ける。上記参照。

②「かけじや」・・・かけまいよ。

・後世の例

『金葉集二度本』

「469 おとにきく たかしのうらの あだなみは かけじや袖の ぬれもこそすれ」

 

源氏は朧月夜のことで須磨に蟄居するという辛い目にあったことを忘れはしないが、凝りもせずあなたに命を投げ出してしまいそうだと言うが、朧月夜は命を投げ出そうなど偽りの言葉だと疑い、性懲りもなく源氏のために涙を流すことなど決してすまいと思っていると決意を伝える。やがて朧月夜は朱雀院の後を追って出家してしまうのである。

 

おまけ

 

医大プロジェクトチームの研究に参加して下さった被験者の皆様のご尽力と、

ネンタ医師の困っている患者様を何とかして救いたいという熱意と、

被験者様に集まっていただこうとして開設したこの拙ブログの存在も少しばかり貢献して実現した論文

 

国際科学雑誌 「PLOS ONE 」の論文

「Brain Regions Responsible for Tinnitus Distress and Loudness: A Resting-State fMRI Study」

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0067778

 

二報目

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0137291

  sofashiroihana