ようこそのお運びで。今年もよろしくお願い致します。

◎和歌山 白良浜 円月島・・・いつも京都方面に乗車する特急を反対方向に乗る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お題

心から かたがた袖を ぬらすかな あくとおしふる 声につけても」(源氏物語・賢木)朧月夜をめぐる歌⑥

 

朧月夜は尚侍になった。尚侍は天皇に近侍する内侍司の長官だが、天皇の妃として待遇される。朧月夜は、朱雀帝の妃たち中で傑出して寵愛を受けていた。しかし、心の中では源氏のことを慕い続けていて、恋文の贈答をしている。源氏は世間の噂も気にしつつ、困難な恋ほどのめり込むという癖から、朧月夜が帝寵を受けるようになって以来、ますます愛情が深まっていった。

 

わづらはしさのみまされど、尚侍の君は、人知れぬ御心し通へば、わりなくてもおぼつかなくはあらず。五壇の御修法の初めにてつつしみおはします隙をうかがひて、例の、夢のやうに聞こえたまふ。かの、昔おぼえたる細殿の局に、中納言の君紛らはして入れたてまつる。人目もしげきころなれば、常よりも端近なる、そら恐ろしうおぼゆ。朝夕に見たてまつる人だに飽かぬ御さまなれば、ましてめづらしきほどにのみある御対面のいかでかはおろかならむ。女の御さまも、げにぞめでたき御盛りなる、重りかなるかたは、いかがあらむ、をかしうなまめき若びたる心地して、見まほしき御けはひなり。ほどなく明けゆくにやとおぼゆるに、ただここにしも、「宿直奏さぶらふ」と声づくるなり。またこのわたりに隠ろへたる近衛司ぞあるべき。腹ぎたなきかたへの教へおこするぞかし、と大将は聞きたまふ。をかしきものから、わづらはし。ここかしこ尋ね歩きて、「寅一つ」と申すなり。女君、

 心から かたがた袖を ぬらすかな あくとおしふる 声につけても

とのたまふさま、はかなだちていとをかし。

 嘆きつつ わが世はかくて 過ぐせとや 胸のあくべき 時ぞともなく

静心なくて出でたまひぬ。

・・・源氏にとって世の中は面倒なことばかり多くなるが、尚侍の君(=朧月夜)とはひそかにお心が通じているので、無理をなさりながらも、逢瀬が途絶えているわけではない。五大尊を置く壇を用意して行う御修法の初めということで、帝がお慎みでいらっしゃる隙を伺って、源氏はいつものように、夢のように儚い時間、お逢い申し上げる。あの、昔を思い出す細殿の局に、中納言の君(=朧月夜の女房)が人目を紛らわして源氏をお入れ申し上げる。御修法の為、人目も多い頃なので、いつもより端近の逢瀬であるのが、そら恐ろしく思われる。朝夕に源氏を見申し上げる人でさえ、見飽きることのない美しさであるから、ましてたまにしかない御対面が、どうして並み一通りの逢瀬であろうか。女(=朧月夜)のご様子も、本当にすばらしい女盛りでいらっしゃるが、重々しさという点ではどうであろうか、が、美しく優美で若々しい感じがして、見ていたくなる御様子である。間もなく夜も明けてゆくのであろうかと思われる時に、ただすぐそばで「宿直奏の者がここにおります」と咳払いして言うのが聞こえる。「自分以外にも、このあたりに忍びこんでいる近衛官(=宿直奏の上司)がいるのだろう。意地の悪い同僚が上司の恋の忍び場所を教えて寄越したのだろうよ」と源氏の大将はお聞きになった。面白くはあるが、面倒だ。あちこち上司を捜しまわって「寅一つ(=午前四時頃)」と申し上げるのが聞こえる。女君(=朧月夜)が、

 心から かたがた袖を ぬらすかな あくとおしふる 声につけても

とおっしゃる様子は、心細げでとてもいじらしい。

 嘆きつつ わが世はかくて 過ぐせとや 胸のあくべき 時ぞともなく

源氏は慌ただしくお帰りになった。・・・

 

朧月夜は朱雀帝の寵愛を受けるようになってからも、密かに折を見て、源氏と密会を続けていた。出会いの場を思い出させる細殿の局に、朧月夜の女房の中納言の君が手引きして源氏を入れ、夢の如き儚い逢瀬を持った。近くで近衛司が忍び逢いしていた模様で、部下の宿直奏がそばで夜明けを告げるのが厄介である。宿直奏の「寅一つ」の声を聞き、朧月夜が歌を詠む。その様子は可愛らしい。源氏は返歌をし、慌ただしく帰った。

 

源氏物語六百仙

 

◎和歌を抜き出す。

 

朧月夜の歌

☆心から かたがた袖を ぬらすかな あくとをしふる 声につけても

・・・自分から求めて、あれこれと袖を濡らす恋をすることです。「夜が明けた」――「あなたに飽きた」――と教える声が聞こえるにつけても。・・・

①「心から」・・・自分から求めて。自分の心が原因で。

『古今集』

「422 心から 花のしづくに そほちつつ うくひずとのみ 鳥のなくらむ」

『後撰集』

「779 心から うきたる舟に のりそめて ひと日も浪に ぬれぬ日ぞなき」

②「かたがた」・・・あれやこれや。

『源氏物語』

「662 かたがたに くらす心を 思ひやれ 人やりならぬ 道にまどはば」

③「あく」・・・「明く」と「飽く」(飽きる)の掛詞。

『斎宮女御集』

「8 ほどもなく あくといふなる はるのよを ゆめも物うく みえぬなるらん」

 

源氏の返歌

☆嘆きつつ わが世はかくて 過ぐせとや 胸のあくべき 時ぞともなく

・・・我が一生は、このように嘆きながら過ごせとでもいうのだろうか、十分に気持ちが晴れたと思える時もなくて。・・・

①「嘆きつつ」・・・嘆きながら。

『蜻蛉日記』

「27 なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる」

②「わがよ」・・・「よ」は「夜」と「世」との掛詞。

『拾遺集』

「436 ありあけの 月のひかりを まつほどに わが世のいたく ふけにけかな」

『紫式部日記』

「14 年くれて わがよふけ行く かぜのおとに こころの中の すさまじきかな」

③「胸のあくべき」・・・「胸あく」は「胸開く」で「気持ちが晴れる」意。「あく」は「開く」と「明く」との掛詞。

『和泉式部続集』

「153 わが胸の あくべき時や いつならん きけばはねかく しぎも鳴くなり」

④「夜」「明く」は縁語。

 

朧月夜は「あく」に「明く」「飽く(飽きる)」の意を掛け、宿直が「寅一つ」と夜が「明く」のを教えたことに、あなたが私に「飽きた」と教えたの意を持たせ、悲しんでみせる。源氏は、「あく」を胸が「開く」の意に転換させ、自分は朧月夜との逢瀬に満足して心が晴れる時などがないのがつらいと嘆く。

 

おまけ

 

医大プロジェクトチームの研究に参加して下さった被験者の皆様のご尽力と、

ネンタ医師の困っている患者様を何とかして救いたいという熱意と、

被験者様に集まっていただこうとして開設したこの拙ブログの存在も少しばかり貢献して実現した論文

 

国際科学雑誌 「PLOS ONE 」の論文

「Brain Regions Responsible for Tinnitus Distress and Loudness: A Resting-State fMRI Study」

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0067778

 

二報目

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0137291

 

 

  sofashiroihana