ようこそのお運びで。

「ものおもふと過ぐる月日も知らぬ間に今年は今日ぞかぎりなりける」・・・歳暮の心境を詠んだ敦忠の歌。夢うつつのうち、いつのまにか今日が今年の最終日になったと気づく。『源氏物語』「幻」の巻の最終歌として引用される。

皆様、良いお年をお迎え下さいませ。

◎京都・仁和寺

 

 

 

 

 

 

 

 

◎京都・府立植物園

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お題

「あづさ弓 いるさの山に まどふかな ほの見し月の 影や見ゆると」(源氏物語・花宴)朧月夜をめぐる歌⑤

 

藤の花の宴に招かれた源氏は、花の美しさをも圧倒する優美な姿で参加する。夜更けて酔った振りをして宴の場を去り、女一の宮・女三の宮のいる寝殿のもとに来る。弘徽殿女御の妹の姫君たちも同座していると推測したからだ。

 

いづれならむと、胸うちつぶれて、
 「☆扇を取られてからきめを見る」

と、うちおほどけたる声に言ひなして、寄りゐたまへり。「あやしくもさま変へける高麗人かな」と答ふるは、心知らぬにやあらん。答へはせで、ただ時々うち嘆くけはひする方に寄りかかりて、几帳越しに手をとらへて、
 「☆あづさ弓 いるさの山に まどふかな ほの見し月の 影や見ゆると
 何ゆゑか」
とおしあてにのたまふを、え忍ばぬなるべし、
  ☆心いる 方ならませば ゆみはりの つきなき空に 迷はましやは
といふ声、ただそれなり。いとうれしきものから。

・・・あの姫君はどれだろうかと、胸がどきどきして、

 「☆扇を取られてからきめを見る」

と、わざとおっとしした口調で言って、(長押に)近寄ってすわりなさった。「(帯ではなく扇を取られた)とは、おかしなことに、ずいぶん様子の変わった高麗人ですわね」と答えるのは、事情を知らない人であろうか。返事はしないで、ただ時々、溜息を気配のする方に寄りかかって、几帳越しに手をとらえて、

 「☆あづさ弓 いるさの山に まどふかな ほの見し月の 影や見ゆると

  なぜ、このようになるのでしょうか」

と当て推量におっしゃるのを、我慢しかねたのであろう、

  ☆心いる 方ならませば ゆみはりの つきなき空に 迷はましやは

という声は、まさにその姫君であった。たいそう嬉しいものの。・・・

 

どの姫君だろうかと心ときめきながら、その人を見つける為、「帯をとられて~」という催馬楽を「扇をとられて~」と、扇を交換した当事者にだけ通じるように替え歌にする。事情の分からぬ者は怪訝に思うが、これを聞いて溜息をつく姫君がいた。その手を捉え、歌の贈答をする。姫君の声はまさしくその人の声だった。

 

源氏物語六百仙

 

 

◎和歌と催馬楽を取り出す。

扇を取られてからきめを見る・・・以下の催馬楽の「帯」を「扇」に換えている

『催馬楽・石川』

「石川の 高麗人に 帯を取られて からき悔する いかなる いかなる帯ぞ・・・」

 

源氏の歌

☆あづさ弓 いるさの山に まどふかな ほの見し月の 影や見ゆると

・・・いるさの山でうろうろしていることです。仄かに見た月の光がまた見えるかと思って。――このあたりでうろうろしていることです。少しだけ見かけたあなたの姿が拝見できないかと思って。――・・・

①「あづさ弓」・・・ここでは「いる(射る)」に掛かる枕詞。他に「引く」「張る」「音」「末」「寄る」などに掛かる。

『躬恒集』

「158 あづさゆみ いるまとかたに みつしほの ひるはありがたみ よるをこそまて」

『後撰集』

「379 梓弓 いるさの山は 秋ぎりの あたるごとにや 色まさるらむ」

②「いるさの山」・・・但馬の国の歌枕。「いる」に「射る」や「入る」を掛けることが多い。

『古今和歌六帖』

「869 しらまゆみ いるさのやまの ときはなる いのちかあやな こひひてやあらん」

『源氏物語』

「71 里分かぬ かげをば見れど 行く月の いるさの山を 誰かたづぬる」

③「ほの見し月」・・・仄かに見た月。朧月夜を喩えている。

 

朧月夜の返歌

☆心いる 方ならませば ゆみはりの つきなき空に 迷はましやは

・・・もし心引かれている所なら、月の出ていない空の下でも迷ってうろうろしたりするでしょうか。うろうろなさるのは、本当は心引かれている所ではないからですわ。――私にご執心というのは嘘ですわね。――・・・

①「心いる」・・・「心引かれる」の意。

『後拾遺集』

「1152 つねならぬ 山のさくらに 心いりて いけのはちすを いひなはなちそ」

『多武峰少将物語』

「55 きみをなほ うらやましとぞ 思ふらむ おもはぬやまに 心いるめり」

②「いる」「ゆみ」は縁語。

『拾遺集』

「533 あづさゆみ はるかに見ゆる 山のはを いかでか月の さして入るらん」

『大和物語』

「208 てる月を ゆみはりとしも いふことは 山べをさして いればなりけり」

③「ゆみはりのつき」・・・「ゆみはりの」は「月」の枕詞。同時に「弓張の月」は三月二十余日の月の形でもある。

 

源氏が、ほのかに見かけた女性のありかを求めて彷徨っていると詠んだのに対し、朧月夜は彷徨うのは本当にその相手に心引かれてはいないからでしょうに、と源氏の執心を偽りと否定する。

 

おまけ

 

医大プロジェクトチームの研究に参加して下さった被験者の皆様のご尽力と、

ネンタ医師の困っている患者様を何とかして救いたいという熱意と、

被験者様に集まっていただこうとして開設したこの拙ブログの存在も少しばかり貢献して実現した論文

 

国際科学雑誌 「PLOS ONE 」の論文

「Brain Regions Responsible for Tinnitus Distress and Loudness: A Resting-State fMRI Study」

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0067778

 

二報目

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0137291

 

 

  sofashiroihana