ようこそのお運びで。まさか熊は出まいと思いつつ山中へ。石段をひたすら上る。杞憂だった。木の葉のグラデーションが美しい。
◎11月初旬の京都・高雄神護寺①
お題
「数ならば 身に知られまし 世のうさを 人のためにも 濡らす袖かな」
(源氏物語・夕霧)夕霧をめぐる歌㊶
◎藤内侍は、源氏の乳母子である惟光の娘で、かつて五節の舞姫を務めた女性である。長年、夕霧の愛人となっていた。雲居の雁より低い身分であるが、夕霧との現状を知り、雲居の雁に手紙を贈る。
◎いとどしく心よからぬ御けしき、あくがれまどひたまふほど、大殿の君は、日ごろ経るままに、思し嘆くことしげし。典侍かかることを聞くに、われを世とともに許さぬものにのたまふなるに、かくあなづりにくきことも出で来にけるを、と思ひて、文などは時々奉れば、聞こえたり。
☆数ならば 身に知られまし 世のうさを 人のためにも 濡らす袖かな
なまけやけしとは見たまへど、もののあはれなるほどのつれづれに、かれもいとただにはおぼえじと思す片心ぞつきにける。
☆人の世の うきをあはれと 見しかども 身にかへむとは 思はざりしを
とのみあるを、思しけるままとあはれに見る。
・・・夕霧が、ますますご機嫌斜めな落葉の宮のご様子に、上の空で心迷っていらっしゃった頃、雲居の雁は、日数が重なるにつれ、嘆かわしく思いなさる気持ちが激しくなっている。藤内侍は、このような夕霧と雲居の雁の仲の噂を聞くにつれ、雲居の雁は自分のことをいつまでも許せぬ存在とおっしゃっているということだが、このように侮ることのできない落葉の宮という女性が現れたことをどうお思いになっているだろうと案じて、これまでも手紙などは時々、さしあげていたので、今回もお贈りした。
☆数ならば 身に知られまし 世のうさを 人のためにも 濡らす袖かな
雲居の雁は、生意気なとはごらんになったけれど、物思いをしがちな最近の所在なさに、藤内侍も、たいそう心が平穏ではいられまいと思いなさる気持ちが一方では生じたのだった。
☆人の世の うきをあはれと 見しかども 身にかへむとは 思はざりしを
とだけ返事があるのを、お思いになったままを詠まれたのだと同情してご覧になった。・・・
雲居の雁は、愛人の分際で自分に同情を寄せてくる藤内侍に小生意気なという気持ちも当初持ったが、落葉の宮と夕霧のことでは藤内侍も心を痛めているだろうとも思い、同情を好意的に受け入れる。
雲居の雁・源氏物語六百仙
◎歌を取り出し、検討する。
☆数ならば 身に知られまし 世のうさを 人のためにも 濡らす袖かな
・・・もし私が人並みの女でしたら我が身のことと思い知らされるでありましょう夫婦の仲のつらさというものを、今はあなたさまの身に立って涙に袖を濡らしていることです。・・・
①「数ならば」・・・「人並みであるなら・人数に入るなら」の意。
『篁集』
「23 かずならば かからましやは 世中に いとかなしきは しづのをだまき」
②「身に知られまし」・・・「れ」は自発の助動詞「る」の未然形。「まし」は反実仮想の助動詞「まし」の連体形。
③「世」・・・「夫婦の中」の意。
④「ひと」・・・雲居の雁を指す。
☆人の世の うきをあはれと 見しかども 身にかへむとは 思はざりしを
・・・他のご夫婦の仲がつらいものであるのをお気の毒にと思って見ていましたが、我が身がその立場に代えてつらさを味わうことになるとは思わないでおりましたものを。・・・
①「人の世」・・「他人の夫婦の仲」の意。
②「身にかへん」・・・わが身の立場に代えること。
『拾遺集』
「54 身にかへて あやなく花を 惜むかな いけらばのちの はるもこそあれ」
藤内侍は夕霧の正妻である雲居の雁にへり下りながらも、つらさに思いを馳せて同情している。雲居の雁はうまくいかない夫婦を他人事として見ていたが、自分が当事者になろうとはと嘆き、藤内侍の同情を素直に受け入れている。
その後、最終的には落葉の宮は六条院に移され、雲居の雁のもとと夜ごとに十五日ずつ、律儀に通い住むようになるのである。
おまけ
医大プロジェクトチームの研究に参加して下さった被験者の皆様のご尽力と、
ネンタ医師の困っている患者様を何とかして救いたいという熱意と、
被験者様に集まっていただこうとして開設したこの拙ブログの存在も少しばかり貢献して実現した論文
国際科学雑誌 「PLOS ONE 」の論文
「Brain Regions Responsible for Tinnitus Distress and Loudness: A Resting-State fMRI Study」
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0067778
二報目
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0137291