ようこそのお運びで。我が夫は、たとえ地球人全てに私が敵対しても、最後まで味方してくれそうな大親友のような存在だった。衝撃的事件で突如、最大の味方をなくし、私同様、夫の面影を宿す子供もないご夫人、喪失の中で力強く再生できるのだろうか。もっとも、生きていようが死んでいようが誰からも気づかれず、関心さえ持たれない天涯孤独の存在意義の無い私と比べるのは失礼に価するか。私はまだ喪失の地獄の中にいる。救われない心が身体の不調を次々と招いている。しばし忘れようとして痛み止めを多量に持参して、狂ったように旅に出て、自分を誤魔化している。不眠症も全く解消されず、夜中にブログを書いている。

 

※6月下旬撮影の拙写真

◎京都・相国寺の立葵

 

 

 

 

 

 

 

※6月上旬撮影の拙写真

◎京都・梅宮大社のお猫さま・紫陽花・花菖蒲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お題

「折りて見ば いとどにほひも まさるやと すこし色めけ 梅の初花」(源氏物語・竹河)玉蔓をめぐる歌㉝

 

◎源氏亡き後の玉蔓が「竹河」の巻に描かれる。玉蔓は、夫・髭黒右大将が薨去し、未亡人となっていた。子供たちの内、男子三人はそれぞれ結婚し、官位の昇進にはいささか不安はあるものの、一人前に成長している。玉蔓の悩みの種は、大君(姉)と中君(妹)の二人の姫君の将来のことだった。特に美しいと評判の大君には求婚者が多い。生前、髭黒右大将は大君を入内させることを望んでおり、帝も期待していた。また、冷泉院はいまだに玉蔓に恋慕の情を抱き、娘の大君を所望している。臣下では、夕霧(源氏の息子)の子の蔵人の少将が特に求婚に熱心であった。玉蔓は源氏の息子(世間には知られていないが、実は柏木が実父)の薫を婿にしたいと思うこともあり、大君の処遇について悩みは尽きなかった。新年になり、梅が開花する頃、薫が玉蔓のもとに年賀の挨拶のため訪問する。

 

国宝源氏物語絵巻・竹河・薫が玉鬘のもとに参賀

 

◎夕つけて四位侍従参りたまへり。そこらおとなしき若君達も、あまたさまざまに、いづれかはわろびたりつる、みなめやすかりつる中に、立ちおくれてこの君の立ち出でたまへる、いとこよなく目とまる心地して、例のものめでする若き人たちは、「なほことなりけり」など言ふ。「この殿の姫君の御かたはらには、これをこそさし並べて見め」と聞きにくく言ふ。げにいと若うなまめかしきさまして、うちふるまひたまへる匂ひ香など世の常ならず。「姫君と聞こゆれど、心おはせむ人は、げに人よりはまさるなめりと見知りたまふらむかし」とぞおぼゆる。尚侍の殿、御念誦堂におはして、「こなたに」とのたまへれば、東の階より上りて、戸口の御簾の前にゐたまへり。御前近き若木の梅心もとなくつぼみて、鴬の初声もいとおほどかなるに、いとすかせたてまほしきさまのしたまへれば、人々はかなきことを言ふに、言少なに心にくきほどなるをねたがりて、宰相の君と聞こゆる上臈の詠みかけたまふ。
 「☆折りて見ば いとどにほひも まさるやと すこし色めけ 梅の初花」
口はやしと聞きて、
 「☆よそにては もぎ木なりとや さだむらん したに匂へる梅の初花
 さらば袖ふれて見たまへ」

など言ひすさぶに、「まことは色よりも」と、口々、ひきも動かしつべくさまよふ。

 

・・・夕方になって四位侍従(薫・源氏の子。実は柏木と女三宮の密通による子。生まれながら身体から良い香りを放つ。)が参上なさった。大勢の大人になった若公達も、みなそれぞれに、どの方が見劣りしようか。みな見た感じが良かったが、その中で、ひと足後れてこの君が姿をお見せになったのが、実に格別に目をひく感じがして、いつものように夢中になりがちな若い女房たちは、「やはり、別格でいらっしゃること」などと言う。「このお邸の姫君のお側には、この方をこそ並べて見たいものです」と聞きにくいことを言う。本当にとても若く優美な姿をして、身じろぐ身体から漂わせている匂い香りなど、世の常のものではない。「高貴な姫君と申し上げても、思慮のある方なら、(この薫が)本当に誰よりも優れているようだと、納得なさるに違いない」と思われる。尚侍の殿(玉蔓)は、御念誦堂にいらして、「こちらに」とおっしゃるので、(薫が)東の階段から昇って、戸口の御簾の前にお座りになった。お庭先の若木の梅がかすかに蕾みをつけて、鴬の初音もとてもたどたどしい頃、(薫が)好き心を誘いだし申し上げたい様子をなさっているので、女房たちがつまらない冗談を言い掛けると、(薫が)言葉少なに奥ゆかしい返事をなさるのを、しゃくに思って、宰相の君と申し上げる身分の高い女房が詠みかけなさる。

 「☆折りて見ば いとどにほひも まさるやと すこし色めけ 梅の初花
歌を詠むのが早いなと(その歌を)聞いて
 「☆よそにては もぎ木なりとや さだむらん したに匂へる梅の初花

そう言われるなら、袖を触れて御覧なさい」

などと戯れ言を言うと、「本当は色よりも(香りを)」と、口々に、袖を引き動かしそうに付きまとう。

 

訪れた薫に玉蔓邸の若女房たちは夢中になる。優美な姿、漂う芳香、別格の男性である。梅が初花をつけ、鶯の初音が聞こえる中、女房たちは薫の好き心を誘発したく、軽口を言い掛けるが、薫の反応は少ない。じれた女房の一人・宰相の君が歌を詠み掛け、薫が返歌する。それに対し、女房たちは「色よりも」と引き歌を言い掛ける。玉蔓に「まめ人」(真面目な人)に対する態度ではないとたしなめられる。

 

 

横山大観氏

 

 

◎贈答歌と引き歌を取り出す。

 

◇贈答歌

宰相の君の歌

☆折りて見ば いとどにほひも まさるやと すこし色めけ 梅の初花」

・・・手折って近づけて見たならば、ますます美しさもまさると思われるので、少しは華やかな色になりなさい、梅の初花よ。――お近づきの関係になるなら、ますます素晴らしさも増すと思われますので、少しは色めかしくふるまって下さいまし、梅の初花のようなお方よ。・・・

①「折りて見ばいとどにほひもまさるや」

・折って近くで見ると色香がまさるという発想。

☆『古今集』

「37 よそにのみ あはれとぞ見し 梅花 あかぬいろかは 折りてなりけり

☆『紫式部集』

「36 をりてみば ちかまさりせよ ももの花 おもひぐまなき さくらをしまじ」

・「花を折る」ことが異性を自分のものにするという意で用いられることがある。

☆『後撰集』

「    あひしりて侍る女の、人にあだなたち侍りけるに、つかはしける

・「にほひ」は小学館・全集では「よいにおい」と訳しているが、後に女房は「まことは色よりも」と発言しているので、ここでは「色」同様、視覚的な美を表す「にほひ」と取るのが妥当ではないか。

844 枝もなく 人にをらるる 女郎花 ねをだにのこせ うゑしわがため」

②「色めけ」・・・「色めく」に「華やかな色を見せる」の意に「色好みにふるまう」の意を掛ける。

☆『金葉集二度本」

「232 白露や こころおくらん をみなえへし いろめく野辺に 人かよふとて」

③「梅の初花」・・・今春、初めて咲く梅の花。

☆『後撰集』

「23 きて見べき 人もあらじな わがやどの 梅のはつ花 をりつくしてむ」

「26 わがやどの 梅のはつ花 ひるは雪 よるは月とも 見えまがふかな」

ここでは薫を指している。

 

源氏物語六百仙

 

薫の返歌

☆よそにては もぎ木なりとや さだむらん したに匂へる梅の初花

・・・傍目には私のことを枯れ木のようだよ決めているのでしょう。でも、心の中は色香に匂う梅の初花と同じなのですよ。・・・

 

①「よそにては」・・・離れたところでは。傍目には。

☆『貫之集』

「323 よそにては 花のたよりと みえながら 心のうちに 心あるものを」

②「もぎ木」・・・枝葉をもいだ木。枯れ木。

☆『散木奇歌集』

「1424 われといへば あための山に しをりする もぎきのえだの なさけなのよや」

③「したに」・・・心の内に

☆『古今集』

「652 こひしくは したにをおもへ 紫の ねずりの衣 色にいづなゆめ」

「667 したにのみ こふればくるし 玉のをの たえてみだれむ 人なとがめそ」

 

 

同上

 

宰相の君の歌は、表面上は梅の初花に呼びかける形だが、実質的には、梅の初花のように優美な薫に「男女の関係になったら、あなたの素晴らしさが一層よく分かるでしょうから、色めいたところも見せてほしい」と挑発的に呼びかけた歌である。対して薫は、「傍目には枯れ木でも、内心は色めかしいのだよ」と敢えて軽い返事をし、「袖に触れてごらん」と戯れる。

 

 

◇女房たちの引き歌

色よりも

元歌は『古今集』

「33 色よりも かこそあはれと おもほゆれ たが袖ふれし やどの梅ぞも

・・・色よりも香りこそすばらしいと思われる。一体、誰が袖を触れた香りが移った我が家の庭の梅なのだろうか。・・・

 

女房たちは薫に「にほひ(視覚的美)もまさる」と言い掛けたが、実を言うと、薫の美しい姿以上に、えも言われぬ香りに心が動かされるのですよと本音を言い、薫の芳香をかごうとしてざわつく。

 

 

竹内栖鳳氏

 

玉蔓はこちらの気がひけるほどの「まめ人」(真面目なお堅い人)に対し、厚かましい態度を取った女房たちを「まあ、困った人たちだこと」とたしなめるのだった。   

                                                      続く 

 

 

おまけ

 

医大プロジェクトチームの研究に参加して下さった被験者の皆様のご尽力と、

ネンタ医師の困っている患者様を何とかして救いたいという熱意と、

被験者様に集まっていただこうとして開設したこの拙ブログの存在も少しばかり貢献して実現した論文

 

国際科学雑誌 「PLOS ONE 」の論文

「Brain Regions Responsible for Tinnitus Distress and Loudness: A Resting-State fMRI Study」

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0067778

 

二報目

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0137291

 

 

  sofashiroihana