Fラン大学の退学率と留年率
文部科学省の調査によると、大学4年間での退学率(中退率)の全国平均は8%弱だそうです。しかし、私が勤めていたFラン大学某学部の退学率は、およそ30%ありました。
退学の理由は、ほとんどが勉学の意欲なしです。もともと何を学びたいかという目標もなく入学してきて、授業にも出席せず、単位もほとんど取れずに過ごしてきて、そしてある日突然、退学を申し出るというのがお決まりのパターンです。
学生から退学の申し出があると、事務職員ならびにゼミ教員が面談を行います。そこで、あの手この手で退学を思いとどまるように説得するのです。
「今ここで退学したら、君は高卒になってしまう。これからの時代、高卒では就職先も限られるし、結婚にも影響するかもしれない。君のためを考えると、もう少しうちの大学で頑張ってみたほうがいいんじゃないかな。せっかくこうやって大学に入れたのに、今辞めるのはあまりにももったいなすぎると思うよ」
とか何とか、本人のために心配してアドバイスしているふりをするのです。実際には誰も辞めていく学生本人のその後の人生のことなど心配していません。心配しているのは収入のことです。学生1人が辞めると、その分の学費収入が減ります。また、文部科学省からの補助金(私学助成金)も、学生の人数を根拠に算定されていますので、そちらも減ることになります。さらに退学者が多いと、文部科学省からきちんと教育をしていないとみなされて、それも補助金減額の根拠とされてしまいます。それをできるだけ避けたいので、退学希望の学生を何とか引き留めようとするのです。
こうやって引き止めるのですが、大体の場合はそれでもやはり学生は翻意せず、結局退学ということになります。ときどき、学生本人は勉学意欲を完全に失っているのに、親御さんがどうしても大学を卒業させたいと強く希望されている場合があり、その場合はとりあえず学業継続または休学となることもあります。しかし、そのような場合でも、半年なり一年なりすると、やはり退学となることが多いです。
それで、もし100人入学してきたとすると、4年生になるまでに3割が抜け、70人に減ってしまうのです。ところが、この70人のうち30%は、単位不足で卒業ができません。留年率も約30%あるのです。つまり、70人中、50人程度しか4年で卒業できないのです。入学してきた100名から考えると、約半分しか順調に卒業できません。
卒業できないと留年になるので、5年目も学費を払ってもらうことになります。一見すると大学は儲かるように見えますが、実際にはできれば4年で卒業してもらいたいと大学は願っています。なぜなら、留年者が多いと、文部科学省から睨まれるからです。
退学者もそうですし、留年者もそうですが、そのような学生が多いということは、その大学はきちんと教育をしていないと文部科学省は考えます。退学者の中には、上記のように勉学意欲を失ったという消極的理由だけでなく、プロのスポーツ選手になりたいとか、起業したいとか、外国の大学に留学したいとかという積極的理由(それが実現できるかどうかはこちらは問わない)で退学する学生もいるにはいるのですが、文部科学省はそのような個別の事情は関知しません。単純に数字を見るだけです。そしてその数字が他大学に比べて高いと、補助金の査定でマイナス評価となるのです。これも、本当にマイナス評価になるかどうかは、文部科学省の内部情報ですので、大学側ではわかりません。しかし、マイナス評価になる可能性があると一般的には考えられますので、大学の経営者としては、そのような事態はできるだけ避けたいと思うわけです。そのためには、退学者や留年者をなるべく出さない方策が求められます。つまり、なるべく簡単に単位を出して学生に迎合することにより、退学や留年を事前に予防することが、Fラン大学の現場の教員には言外に求められるということになるわけです。