3. 3 第三の係争点:安定性の説明—Stacking Point #3: Explanations of Stability
相対論や量子力学に代表される根本的な変化が数多く起り、科学の典型的なあり方が不安定性にあると見なされた20世紀初頭とは異なり、現在では科学理論の安定性をいかに理解するかが問題として浮上してくる。安定性の問題は、科学の不可謬性や欺瞞に関わる問題ではない。ハッキングはまず、ワインバーグによる科学理論の安定性に関する議論を素材に、この問題に先述の2つの係争点が関わることを指示し、次いで、構成主義と反構成主義的な科学者の間の第三の係争点として「安定性の原因」についての議論を提示する。
安定性についてのワインバーグの見解
・ワインバーグは、科学の産物(ex. 第ニ法則やマクスウェル方程式)が文化的・歴史的に構成されたものだとしてもその産物が現在持つ意味や内容に影響を及ぼしていないことを示唆する(構成主義者はこれに対し科学理論の形式のみならず内容も社会的影響を被ることを主張するだろう)。
・だが、ワインバーグは、安定性を定理や理論、数やその性質が、実在的であるものとして経験される(逆らい難く、ゆるぎないものとして)ということへ求める。
・また、このような確信は構造内在性テーゼへ行き着く。
さらなる係争点は、安定性の原因に関する
・科学的安定化の外在的説明をめぐる対立(なぜ一群の科学的信念や慣習が受け入れられるか?)
:構成主義者は科学の内容にとって外的な要因が働くことを強調する
ex. エディンバラ学派...「利害」「関心」、ラトゥール(ANT)...「ネットワーク」
・上の対立は、古典的な経験主義と合理主義の対立と類比的である。それは、真理の外的な理由と内的な理由をめぐるロックとライプニッツの歴史的対立の蒸し返しと言えなくもない。
ライプニッツ : 真理を支える理由はその真理に内在的なものである
ロック:真理(ないしそれに対する信念)は、その信念に対し常に外在的で、われわれの
経験以上の根拠を持ち得ない
→解消不可能な係争点(「知識とは何か」という問題に対する内在的理解と外的理解)
《係争点》
構成主義:
「科学的信念の安定性に対する説明は、少なくとも部分的には、その科学の公式の内容には含まれない、何らかの外在的な要因を含まざるをえない」と考える。そして、典型的には、その外的要因に、利害やネットワークなど、社会的なものが含まれる。
反構成主義:
「科学的発見の文脈はともかく、科学理論の安定化のプロセスの説明は、その科学それ自身に対して内在的なものとなるはずである」と主張する。
****
3つの係争点は哲学的だが、それらをめぐる議論と構成主義者の反権威主義、政治的スタンスは関わっている。
(略)3. 4 「暴露」による反権威主義—Anti-Authority by Unmasking—
3. 5 左と右の政治力学—Left and Right Politics—
3. 6 クーンとファイヤアーベント—Kuhn and Feyerabend—
3. 7 チェックリスト—Check List—
相対論や量子力学に代表される根本的な変化が数多く起り、科学の典型的なあり方が不安定性にあると見なされた20世紀初頭とは異なり、現在では科学理論の安定性をいかに理解するかが問題として浮上してくる。安定性の問題は、科学の不可謬性や欺瞞に関わる問題ではない。ハッキングはまず、ワインバーグによる科学理論の安定性に関する議論を素材に、この問題に先述の2つの係争点が関わることを指示し、次いで、構成主義と反構成主義的な科学者の間の第三の係争点として「安定性の原因」についての議論を提示する。
安定性についてのワインバーグの見解
・ワインバーグは、科学の産物(ex. 第ニ法則やマクスウェル方程式)が文化的・歴史的に構成されたものだとしてもその産物が現在持つ意味や内容に影響を及ぼしていないことを示唆する(構成主義者はこれに対し科学理論の形式のみならず内容も社会的影響を被ることを主張するだろう)。
・だが、ワインバーグは、安定性を定理や理論、数やその性質が、実在的であるものとして経験される(逆らい難く、ゆるぎないものとして)ということへ求める。
・また、このような確信は構造内在性テーゼへ行き着く。
さらなる係争点は、安定性の原因に関する
・科学的安定化の外在的説明をめぐる対立(なぜ一群の科学的信念や慣習が受け入れられるか?)
:構成主義者は科学の内容にとって外的な要因が働くことを強調する
ex. エディンバラ学派...「利害」「関心」、ラトゥール(ANT)...「ネットワーク」
・上の対立は、古典的な経験主義と合理主義の対立と類比的である。それは、真理の外的な理由と内的な理由をめぐるロックとライプニッツの歴史的対立の蒸し返しと言えなくもない。
ライプニッツ : 真理を支える理由はその真理に内在的なものである
ロック:真理(ないしそれに対する信念)は、その信念に対し常に外在的で、われわれの
経験以上の根拠を持ち得ない
→解消不可能な係争点(「知識とは何か」という問題に対する内在的理解と外的理解)
《係争点》
構成主義:
「科学的信念の安定性に対する説明は、少なくとも部分的には、その科学の公式の内容には含まれない、何らかの外在的な要因を含まざるをえない」と考える。そして、典型的には、その外的要因に、利害やネットワークなど、社会的なものが含まれる。
反構成主義:
「科学的発見の文脈はともかく、科学理論の安定化のプロセスの説明は、その科学それ自身に対して内在的なものとなるはずである」と主張する。
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3つの係争点は哲学的だが、それらをめぐる議論と構成主義者の反権威主義、政治的スタンスは関わっている。
(略)3. 4 「暴露」による反権威主義—Anti-Authority by Unmasking—
3. 5 左と右の政治力学—Left and Right Politics—
3. 6 クーンとファイヤアーベント—Kuhn and Feyerabend—
3. 7 チェックリスト—Check List—