「三井さん㊻結婚指輪の素材について考える」の続きです。

 

プラチナの結婚指輪を購入する意思を固め、本命のお店に向かった。

「指輪を買うっていうことは、つけるっていうことだよね??」

「う、ん、まぁ、努力するよ」

どうやら三井さんにとって結婚指輪はことのほか大事なものらしいことがわかってきた。私には指輪の大事さはよくわからないが、三井さんの考えを尊重することはできる。


入店すると、先ほど接客してくれた店員さんから促されてカウンター席に座った。

目の前に試着用の指輪が並ぶ。

指のサイズを聞かれたが、わからないと答えた。なんせ生まれて初めて指輪をつける。まずはサイズを特定するため、いくつかの指輪をはめてみることになった。ちなみに三井さんは、恥ずかしそうに店員さんに指のサイズを伝えている。指の太さを気にしているらしい。

自分の指のサイズが判明したあとは、指輪の試着を始める。

私はできるだけオーソドックスなものが良いと考えていたので、ストレートで、且つデザインがシンプルなものを選んだ。

つけてみた感想は、
「ふーん。指輪ってこんな感じなんですね」といったところだった。

他のストレートの指輪も試してみたが、感想はやはり「ふーん、はい、どうも」という感じだった。

3つほど指輪を試着してみて、どれでもいいんじゃないかなと思った。
「せっかくの機会だからいろいろつけてみようよ」と促され、ぐにゃっと曲がった形の指輪もつけてみた。

そしてこの指輪をつけたとき初めて「おや?」と思った。さっきと印象がぜんぜん違う。手の角度をいろいろ変えながら指輪を眺める。「これはいわゆるS字型というタイプで、ストレートよりも柔らかい印象を与えます」と店員さんが説明してくれた。なるほど。

最初に選んだストレートの指輪をもう1度つけてみる。たしかに印象が違う。S字型をつける前と後では、ストレートをつけたときの見え方も少し変わった気がする。面白い。

シンプルなものがいいという先入観を捨て、いろいろなタイプの指輪を試してみることにした。細かい見ための違いがわかるようになってきたら、見比べるのが楽しくなった。たくさんの候補のなかから1つを選びだすのは難しかったが、三井さんの意見も聞きつつ、あーだこーだと言いながら1つずつ絞り込んでいき、ほぼストレートでごく僅かにV字の曲線を描く指輪を選び出した。

「うん、これだな」指輪をつけた自分の手を見上げる。

三井さんから「すごーい、よく似合ってるよ!」、店員さんから「よくお似合いです!」と言われ、「ふっふっふ、そうかね」と心の中で思う。

私が主導してデザインを選んでしまったが、三井さんはお店を出たあとも「よかったね! いいのが買えたね! ありがとうね!」と何度も言っていたので、たぶんこれで良かったのだと思う。

最初は一体何のためにそんなに高いものを買うのだろうと思ったが、結婚指輪とは、あるときはパートナーとのつながりを実感/確認するため、またあるときは結婚したときのことを思い返したり、2人の思い出を呼び起こしたりするための象徴として使えるものなのかなと思うようになった。それならば確かに一生使える素材を選んだ方がよいと思う。結局20万円は大幅に超えてしまったけど、ケチったという一生の思い出を残さずに済んでよかったと今は思っている。

名前を彫り終わったら三井さんが指輪を受け取り、渡航時に持ってきてもらう手はずとなった。また1つ、楽しみが増えた。