「三井さん㊼結婚指輪を選び、購入する」の続きです。

 

本日はついに渡航日である。
……が、いくつかの準備がまだ終わっていなかった。

赴任国の銀行口座の残高が0円であることから、当面の生活費として、日本の銀行口座から300万円ふりこむことにした。朝の9時10分に銀行の窓口に到着したのに意外と先客が多く、すべての手続きが終わったのが12時20分。そして振込手続きをした後に気づいたが、赴任直後は自動車の購入や新居の家賃支払いなどで通常の生活費よりも多くのお金が必要になる。「もしかしたら300万円では足りないかも」という心配がじわじわと沸き起こる。

そうはいっても窓口に並びなおしている時間はない。というわけで、三井さんのほうから振り込んでもらうようお願いした。ちょうどそのときウェディングドレスの試着中だったらしく、後ろ姿の写真と共に「お金の件、了解!」という返事がきた。これでたぶん大丈夫だろう。

そこから大急ぎで携帯ショップに行ってスマホを解約し、実家に戻って荷物をまとめ、タクシーで駅に向かった。プラットホームで三井さんと合流し、2人で成田空港に行く。最終日までバタバタとしてしまった。

チェックインを済ませて搭乗券を受け取り、セキュリティチェックの入り口まで進む。

ここで三井さんとは数か月のお別れである。

少しだけ立ち話をしたあと、「じゃあそろそろ行くね」と言って手を差し出した。

「え、なに、もしかして握手? こういうときってせめてハグとかじゃないの?(笑)」

「いやいや、ここでハグはハズいっしょ」

そう言ってみたものの、私はまだ三井さんとハグをしたことがなかったし、こういうときにどうしたらいいかわからなかったのである。あきれた顔をしている三井さんと握手をして私だけがセキュリティチェックに進む。さみしいという実感はまだない。我々の関係はまだまだこれからである。