Angel Down 少女たちの過去編 『イリスの独白 その1』 | 東方自伝録

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注意事項


1、これは東方projectの二次創作小説である


2、オリキャラが登場するのである


3、原作設定一部崩壊、キャラ設定一部崩壊しているのである


4、これらの要素のひとつでも嫌なのであるなら、すぐに戦略的撤退をするのである


5、以上のことが大丈夫ならば、スクロールで読んでいってくれ














「ねぇ、お母様。なんであの子は、いつもあんなじめじめした暗いところにいるの?」


幼い頃の私がした何気ない質問。
普遍な日常にとって、他愛のない会話のひとつだったのかもしれない。
だが母から返ってきた言葉を今でも鮮烈なまでに覚えている。


だって、その言葉は――。


「あの子はね、汚らわしいモノよ。絶対に近づいちゃ駄目だからね」


母の瞳に映る、野獣のような鋭い殺意だったからだ。





これは、今から400年程前の話。正確な年数は覚えていない。
百を越えた辺りから数えることを止めてしまったから。

当時の私は、おそらく幸せの絶頂にいたのだろう。
両親にこれほどにないまでに大切に育てられ、二人の溢れんばかりの愛情を受け続け、優秀で可愛い妹にも恵まれた。
さらには、漆黒の翼という極僅かの限られた吸血鬼に受け継がれる名誉の証を持っているのだ。
周囲の人たちからは尊敬の視線で見られ、私もそのことに快感を感じていた。


彼女の存在に気付いたのは、そんな時期のことだ。
私は両親の前では、いかにも良家のお嬢様の見本みたいな態度を取っている。
これは勿論、両親のためである。あの人たちが褒めてくれることが当時の私にとっての喜びだった。
だが私の本質はそうではない。
わんぱくで、思いっきり遊ぶことが大好きな性分だった。
だから、外では良家のお嬢様らしからぬ遊びも沢山やってきた。
木の上に上って虫を捕まえてみたり、真っ裸で近所の川を泳いでみたり、他にも色々なことをしていた。
時々両親にバレて、説教を受けて、一日中へこんだりしたこともあった。
今思えば、どれも懐かしい青春の日々であったと思う。
だが、そんな青春もある真実に上書きされてしまった。


ある日、屋敷でかくれんぼをしていたところ、ある部屋の前にたどり着いた。
目の前には、頑丈そうな鋼鉄の扉がずっしりと構えていた。


――開かず間の地下室。


昔、父からある話を聞いたことがある。
この屋敷のどこかに、封印された地下室が存在する。
その地下室には悪魔が住んでおり、近寄ろうとすると肉を抉られ骨までしゃぶられ殺されてしまうという、そんな他愛のない怪談。
当時の私は父にこの話を聞かされたとき、一日中眠れなかった。
夜中にトイレに行くときも、お風呂に入るときも、ベッドに潜り込むときも、幾度となく父の怪談話を思い出してしまうのだ。
その度に身体を震わせていた。そして、暗示をかけるかのように何度も何度も呟いた。


「お父様は嘘つきだ。そんな怖い部屋なんて存在しない」


だが、その幻想は儚く打ち消されてしまったのだ。
私の目の前には、部屋がある。
父の怪談話の通りの地下室が。

唾を飲み込み、目の前の扉を見つめる。
依然として、その扉は重く佇んでいる。


――そんな怖い部屋なんてないんだからねっ! 絶対にあるはずがないんだからっ!


プライドを胸に、私はその小さな身体にそぐわぬ大きな勇気で扉を開けた。




螺旋状になっている階段を壁伝いで降りていくと、またひとつ扉が見えてきた。
今度の扉は埃だらけの木製の扉だった。
恐怖を好奇心でかき消して、その扉を開ける。
そして彼女の視界に入ってきたのは――。


「誰か、いるの……?」


一人の少女の姿だった。
黄金色の髪を持つ幼い少女が、全裸のまま拘束具によって縛られていた。
その痛々しい姿は、思わず目を背けたくなるほどのものであった。
恐る恐る近寄ってみると、そのおぞましい姿に驚愕した。


「ッ!?」


身体のあちこちについた痛々しい傷の数々。
その全てが、彼女の身体を蝕んでいた。
当時のイリスには想像もできなかったであろう拷問の傷跡。
だからこそ、目の前の少女がゆっくりと瞼を開けたときは驚きを隠せなかったのだ。


「お姉ちゃん……誰?」


その少女から発せられたそのか細い声が彼女の耳に届く。
そして彼女の口から見えたその牙で、イリスは全てを理解した。
羽なしで恥晒しと産まれながらにして罵られた吸血鬼が家族に一人いたということを。


「私の名前はね、イリス・スカーレット。あなたの、お姉ちゃんだよ」


この少女こそが、彼女の二人目の妹だということを。


               To be continued...