野良犬哀愁歌 後編 | Centotrenta 代表 加藤いさおのBLOG                        

夜仕事が終わり

慌てて帰って

散歩に行く

そんな日が2年ほど続いた

キャンキャン言うと

抱っこし

寝るときはいつも一緒だった

それはそれは厳しく躾けた笑

「犬に服を着させるなんか

人間のエゴや」と言っていた己も

キッチリそのエゴのかたまりになった・・・

 




とある日マンションの管理人さんから

ご近所からクレームが来ていると聞いた

 

私が留守の間ずっと鳴きっぱなしで

ご近所さんの堪忍袋の緒が切れて

「なんとかしてくれ」と

管理人さんに言ったらしい

 

私が居る時は一切吠えなかった彼女だが

留守の時は遠吠えに近い感じで

鳴いていたみたいだ

分譲賃貸だったが

一度クレームが出てしまうと

改善されなければ

やはり退去しなくてはならないとの事

一人暮らしの母に

「あのな、ピコ・・・面倒見てくれへん?」と尋ねた

 

「アホか!またか」と母は言う

「クレーム出て

引っ越さなあかんねんけど

契約残ってて

今、どうしても出られへん状態やし

一人で寂しいやろ?」

 

「寂しいことあるかい!」

 

「毎日仕事やからピコも寂しいみたいやねん

留守中可哀想やろ?」

 

「勝手な事言いな

そんなんやったら飼いな」

 

「わかってる、言いたいことは充分わかってる

でもあの時引き取らへんとこいつ

保健所連れて行かれててんで」

 

まるで幼少期の頃にタイムスリップしたかのような

やりとりだった

 

ピコは初めて会った時から

母にかなり懐いていた

ウマがあったのか

ずっとべったりだった

 

「ピコもかなりおかんの事好きみたいやしな

病院代も、もちろんご飯代も全て支払うから」

 

「当たり前じゃ!」

 

「うん、そうやな・・・・」

 

そこからピコは母と同居するようになった

最終的に母に任せた私も

ペットを保健所に連れて行く人と同罪じゃないか?と

ずっと考えていた時期もあった。

母の家に行くたびに幸せそうな彼女を見て



それもいつの間にか和らいでいった

母は

かなり甘やかしているのか

ブクブク太り

ミニチュアピンシャー独特のあの細い感じではなく

ボッテリしてきた

 

会いに行くたびに

「太らせすぎやろ」と言うと

「よう食べよんねん、しゃあないやろ」と言う

私以上に甘やかせて育ててくれていた笑

 

年明けにピコに会うと

彼女は目が白内障になっていて

獣医の指示通り

目薬をさしているが

やはり彼女はもう、老犬で犬の14歳と言うと

人間に例えるとかなりの高齢になってしまっている。

 

「ピコ散歩行こうか」と彼女を連れて

散歩に出た



少し前までぐいぐい引っ張っていた

彼女も

今は引っ張るチカラが弱くなっている

 

共に歩いていると

彼女が子犬だった頃に空間が戻った気分になった

 

何処に行くのにも一緒

オデコを擦り付けてくるあの仕草

公園でリードを外し

こっそり隠れると

鳴きながら私を探すあの残像

 


「あと少しなのか・・・」

決してそう遠くはない哀しい現実のことを考えると

胸が苦しくなる

 

何故世の中に

昭和の頃の様に野良犬が居なくなったか?

子供に危害を与えたら危険だということで

かなり保健所が動いて

野良犬がゼロに近い状態にしているみたいだ

 

確かに猫は見かけても

野良犬を見ることがなくなった

 

だが「捨て犬」は一向に減らないというのが現実らしい

 

そしてこのコロナ禍

ステイホームで皆さん家に居る機会が多くなった為に

ペットショップがかなり繁盛しているらしく

この機会に

家族に迎える方が増えたとの事

それはとても良い事なのですが

 

コロナが終息して忙しくなった時

果たして・・・・・

家族として迎えられた

犬や猫達は

どうなるのか?とふと心配になった

 

彼ら彼女達は

人間と違って駆け引きを使わない

損得で動かない

 

無償の愛の持ち主だ

 

ずっと飼い主を信じて

ずっと愛してくれる

 

我々人間は残酷だ

 

飼えないからという理由で

保健所へ連れてゆく

 

連れて行かれて

里親も見つからず

殺傷処分になるその瞬間も

 

彼らは

「飼い主の事を信じて愛しているのだろう」

 

あの野良犬「しろ」もそうだったのだろう

閉じ込められた檻の中でもなお

僕らと駆け回っていたあの頃がまた戻ってくると信じて

亡くなっていったのだろう

 

ペットは写真映えの為に使う

アクセサリーではない

「この子と写っている私を見て」

そんなマスターベーションでペットを飼うと

必ず、無責任な人々が多々現れると思う

貴方が彼らを迎えた瞬間

動物という名詞から家族に変換して欲しいと切に願う。

野良犬は自由に世を駆け回れた

捨て犬は未来が暗い

野良が存在していたあの頃

彼らは

今の時代よりは少し幸せだったのかもしれない。