バッカスの懺悔で生まれた
地球上で最も美しい紫石。
バッカスはカドモス王の娘セメレーと、神々の王ゼウスの間に生まれましたが、まだセメレーの体内にいる時のことです。二人を嫉妬したゼウスの妻ヘラは、いつも自分の目を盗んでは浮気を繰り返す夫に仕返しをしてやりたいと考えていました。ある時、名案を思い付きセメレーの乳母に化けてカドモス王の館に赴きます。
何も知らないセメレーは、幸福に満ち溢れた笑顔で、彼女に胎内の子はゼウスの子であることを打ち明けたのでした。ヘラは怒りがこみ上げるのをじっと我慢しながら、何食わぬ顔をして、「セメレーさま、愛し合ったお方は本当にゼウス大神さまですか? 本当のゼウス様なら、人間の姿でなく、妃のヘラさまの前にあらわれるのと同じお姿で現れてくださるはず。セメレー様が本当の姿をご覧になったのでなければ信用できません。」などと、セメレーを挑発します。
ヘラの言葉にまんまと乗せられたセメレーは、「今夜、お願いして本当の姿をみせていただきますわ。」
それがどんなに恐ろしいことか、まだわかっていません。その晩、いつもと同じように館を訪れたゼウスに向かって、「今夜こそ、わたくしに本当のお姿をおみせくださいませ。」
懇願するセメレーにゼウスは困惑。しかし、自分は全能の神です。人間にうそをつくわけにはいきません。人のよいゼウスはもう一度、神の王としての体裁を整えるために天空に舞い戻ります。威厳を纏うと、雲に乗って稲妻と雷鳴をとどろかせながら彼女の館に降り立ちました。そして、ゼウスが彼女を抱こうとした瞬間、悲劇が起きたのです。ゼウスの放つ光線でセメレーは、真っ黒に焼けこげ、あっけなく即死してしまいました。
ゼウスは焼けこげたセメレーの胎内から、まだ六カ月の未熟児を取り出し、自分の太股に縫い込むのでした。
やがて月日が経って、無事ゼウスの太股から誕生したその子は、酒と豊穣の神様としてギリシャ神話の中でも最も親しまれ、多くの伝説を残すことになります。バッカス神の誕生です。
四世紀にローマで書かれた物語には、「セメレーのように甘言に惑わされない様に」と、レア(ゼウスの母)が孫のバッカスに、アメシストという紫の石を与えたという話が出てきて、アメシストとバッカスの関係が描かれています。
しかし、一般的に知られているのは、十六世紀ごろ書かれた次のような物語です。
次回につづく