さて前号からの続きです。
広島県宮島口駅でお迎えの車に乗り込むと、いよいよ一路、島根へ!
運転して下さる方とは、共通の趣味である釣りの話しに花が咲きます。
僕は海釣り派なのに対して、彼は山の中での渓流釣り派。
熊は恐くないですか?から始まり、話題はいつしか僕の憧れの「オオサンショウウオ」へ。
今回の島根への演奏旅行、昨年、夕方ギリギリで惜しくも閉館してしまっていた「瑞穂ハンザケ(オオサンショウウオ)自然館」へ再び連れて行って下さるというのも、楽しみのひとつなのですが、それが正に今からなのです!
今宵は、こちらの立派なお宅を独り占め!
前号でもお伝えした通り、つまりはこの家で独りで寝るという事なのです。
既に敷いて頂いた布団に寝っ転んで、周りをぐるりと撮ってみましたが、皆さんは、この部屋の夜の様子をどう想像されますか?
この後、この建物の別の部屋で地元の方向けのミニミニ無伴奏リサイタルをして、皆様と晩御飯を頂きました。
楽しい宴でした。それでも明るいのは灯りのともる食卓だけ。
我々の後ろは、家の中なのに闇です。
日頃、住宅街に住んでいると、街灯もあるしで家の中に真の闇なんてないものです。しかし田舎では、本来の暗闇が、そこかしこにあるのですね。
さてお食事会もはけて、皆様三々五々帰って行かれます。女性の方々も車を停めてある所まで、本当に真の闇の中を逞しく歩いて行かれます。途中にクマが潜んでいたらと心配になってしまいますよ。
まあ人の心配もですが、我が身の事も心配なんじゃないですか?
昼間っから、今晩、お化けが出たら、いかに渡り合うかばかり空想しています。
明るいうちにトイレまでの動線を実際に歩いてみて、夜になったら、どこがなぜ怖いのだろうかと、冷めた視点で検証してみます。
それでも完全には恐怖心を払拭する事は出来ません。まあ源氏物語の生霊じゃあるまいし、霊に殺される事件は日々のニュースでも聞いた事ないので死ぬことはないでしょう!と開き直るしかない僕を、まさかの事態が救ってくれたのです!
ここの敷地の別棟にお住いのご主人が、僕の隣の部屋に寝て下さると言うではありませんか!!!
奥様が「あんなおどろおどろしい所にお独りでは可哀想」とおっしゃって下さっています。やはり、ここに住む方も「おどろおどろしい」と思っていらっしゃったのですね。
何はともあれ、これで一安心。よく眠れそうなので、明日の石見銀山でのリサイタルは上手くいくでしょう。
さて何事もなく気持ちの良い朝を迎え、今日は石見銀山のパン屋さんでリサイタルですが、泊めて頂いているお宅のご主人が、軽トラを貸して下さいました。
JAFを呼ぶしかないだろうと呼びました。40分くらいで来てくれるそうですが、主催者さんが、さっきの喫茶店のご主人に一応、知らせますと行ってしまわれたので、暗闇で一人ぼっち。残りわずかかもしれない電気を使ってしまったらダメかもとドアも閉めたので真の闇。今回はお化けなんて言っている場合ではありません。リアルに熊が出てこないか心配ですよ。
ほどなくして喫茶店のご主人がJAFが来るまで、こちらにみんなが集まっているので、いらっしゃいませんか?と言うので行ってみましたら、若いご夫婦が数組でバーベキューをしていて、彼らの子供達があたりを元気に走り回っています。夜だけど今日は親公認だから遊んでもいいんだよと、子供達、大興奮。
「随分、子供が沢山いるのですねえ」と僕が聞くと喫茶店のご主人が色々と説明して下さいます。
ここ石見銀山に大きな企業かあって、空き家を50軒くらいリフォームして移住してくる方々に提供しているそうです。奇跡のUターン、Iターンラッシュらしいですよ。
ほどなくして僕の携帯にJAFから電話がかかってきました。
「今、現場に着きました。助手席にギターのある車ですか?」
「はい。そうです。すぐ戻ります!」
と飛んで行くと、既に車の外側からバッテリー残量調査中。
「バッテリーはありますねえ。
ちょっとキーをお借りします」
とJAFの方がキーをひねると、何事もなくエンジンがかかりました!
「あれえ、さっきはどうやってもかからなかってのですが」
「クラッチペダルを踏み込んでエンジンをかけるんですよ」
なんと!!今どきのマニュアル車は、そんな安全装置が付いているのか。僕が少し前まで乗っていた1998年製イタリア車には、マニュアル車だったけど、そんな安全装置は付いていなかったぞ。
こうして街灯も何にもない真っ暗な山道を、主催者さんの車の赤いテールランプにくっ付いて、昨晩のお宅に帰って行きます。
ご主人、今晩はご自身の畑の野菜で天ぷらだとおっしゃっていたけど、もう冷めちゃっただろうなあ。申し訳ない事しちゃったなあ。
宿というか昨晩のお宅に着いて、エンジンを切ると、真っ暗!
建物まで冗談ではなく手探りな世界です。
主催者さんが「ああ、天の川」とおっしゃるので、
えっ天の川!ついに、この時が来たか!明かりのないところで見る星は素晴らしいって言いますもんね。
小説「雪国」のラストシーンのような満点の夜空の天の川を想像して見上げてみました。が、なんと僕には、よく分からない。ええ、あれが天の川なのかなあ程度。
オオサンショウウオといい、天の川といい、なかなか小説のようにはいかないものです。
それよりご主人と天ぷらが待っているよ。急げ急げ!!
今宵も、暗闇から浮かび上がるように、そこだけ明るい食卓で、冷めちゃった野菜の天ぷらを、少し残念そうな顔をされているご主人と主催者さんと3人で美味しく頂きました。
天ぷらは冷めても暗闇に囲まれて、食卓の雰囲気はほっこりしていましたよ。





