9月になってから雨ばかりですね。

雨の日って、しんみりとして心が落ち着くという赴きもあるかと思いますが、ここまで降ると、やはり鬱屈してきます。8月末の、まだ晴れていた頃って、どんな感じでしたっけ?あの頃は、まだ夏休みだったし、みんなニコニコして明るかったよなあ・・なんて、子供の頃を語るみたいな遠い目になってしまいます。


という書き出しを数日前に書いていたのですが、今日、10月1日から晴れてしまいました!こうなると、今度は1ヶ月も雨だった日々の事が雲散霧消、記憶って薄れるものですね。おそろしや。

おそろしやと言えば、ここ数年は 線状降水帯という新しい代物が大暴れして、ニュースでは毎週のように各地での洪水が報じられていました。


そんなある日の台風25号が関東地方に最接近するという時刻に、僕はN響公演のあった高崎より自宅のある鎌倉市に帰っておりました。

高崎では台風の接近を感じさせるような雰囲気が特になかったので、久しぶりにポテトチップスなんぞを購入し、能天気に新幹線に乗り込みました。ポテチを買うなんて、よほど気分の良い時だけの現象なのですよ。要因のひとつには本日のソリスト、アウグスティン・ハードリヒが、あまりにも素晴らしかったからというのがあります。

それと、もうひとつ、ちょっと違う話しなのですが、ポテトチップスに繋がる話なので聞いて下さい。

現在、2人に1台というオーケストラの弦楽器奏者の譜面台が、最近とても遠く感じられて、僕にとって音符が、まじめに小さな蟻んこのようにしか見えないのです。終演後に「くっそーー!僕だって管楽器奏者のように自分の真ん前に譜面台があれば、もっともっと上手く弾けるのに!」という事が度々あります。

これから定年延長などで高齢化するでしょうオーケストラ、経験豊かなプレイヤーの能力を最大限に引き出すためには、60歳以上の希望者には1人1台の譜面台が割り当てられる日が来る事を強く望みます!(注、二人で1つの楽譜を見る利点も大いにあり)


はあ・・・

つい興奮して話しが大きく横道に逸れてしまいしたが、この日、終演後にご機嫌だった、もうひとつの理由というは、この日の最後の曲目、シューマン交響曲第4番は、もう何度も弾いているので、音符が全て見えなくても弾けるのです。それで、いつもの「見えないので弾けなくて、ガッカリ」という終演後のほろ苦さは味わわなくて済み、代わりに本日はポテトチップスを味わっているという訳なのです。


さてさて、そうこうしているうちに新幹線は高崎を出発。ボリボリとポテトチップスを頬張りながら、どれどれ台風はどんなかな?なんてスマホを見ていると、あれれ?既に被害が出ているじゃないですか。しかも僕の地元の鎌倉に!


このXの動画の風景、どこだろう?あれっ、これって水没しているけど鎌倉駅前じゃない!見慣れた風景の変わり果てた姿がスマホの画面から次々と飛び込んできます。


東京駅に着きました。

ホームに降り立つと高崎とは全然違って、風の感じが俄然、台風らしいゴーというものになってきています。

どうやら、これはポテチなんぞ食べている場合じゃないぞ、という事のようです。


困った事に横須賀線や京浜急行線までもが止まっていて、家路の途中までしか行かれません。

この際、横浜辺りのホテルに泊まった方が賢明だろうか?でも、こういう時って、お高いんでしょうね。

あるいは横浜でレンタカーするのはどうだろう?以前、岡山で西日本豪雨に遭遇した時、岡山のレンタカー屋さん、災害の中を乗り回すなんてとんでもない!と貸し出しを中止にしていた事があったなあ。横浜のレンタカー屋さんに、まさか『鎌倉』なんかには絶対、乗って行きませんよ、と言ったら貸してくれるのでしょうか?


まあ、そんな事を考えているうちに、ここから先は運転を取りやめているという最前線の駅、大船に着きました。

この時点での可能性は3つ。

少し待てば、電車が動き出す。

タクシーで帰る。

歩いて帰る。


駅員さんに聞いたら、線路が水に浸かっているから電車は当分動かないそうです。

タクシー乗り場を見に行ったら、有り得ないほど並んでいる。

という訳で、歩いて帰る事となりました。

少しやったあ!な気分。僕は元来、サバイバル好きですからね。


この先は、いよいよ膝くらいまでの水の中を歩くのですかね。裸足は危険でしょうから靴のままって事になるのかな?

と言うことは、この靴とも、今日でおさらばなのか?まだもう少し履けると思っていたけど、思わぬ所で少し早いお別れとなってしまうようです。


そして、この先、どんな苦難が待ち受けているか分からないので、まずは最寄りのコンビニで栄養ドリンクを1本!

困難を前にして、ただでさえ軽くハイなのに、ほうれん草ならぬ栄養ドリンクを飲んだものだから、もう気分は完全にポパイ!


さてさて、これは比喩ではありませんよ。

本物の


『いざ鎌倉!!』


いよいよ始まります。


まずは北鎌倉駅を目指して大船駅を出発。

時々、台風っぽい風にゴーっと後ろから押されて、あっこりゃこりゃと楽ちんに前に押し出されたりしますが、この辺りの景色は単調で角から角までも遠い。

それにしても、まだ夜の7時だというのに誰もいなくて、まるで深夜のようです。

たまに赤く「空車」を灯したタクシーが幻のように過ぎ去って行きますが、あれを停めちゃいけませんよね。大船駅で1時間以上、タクシーを待っている方々の元に戻って行くのでしょうから。


北鎌倉駅を過ぎたありから、俄然、雰囲気が濃密になってきて、なんだか映画「鎌倉物語」や澁澤龍彦のおどろおどろしい小説の世界に入ったよう。

街灯に照らされる、いつもと違う経験をしたであろう道路の濡れ光り、時折りごーと吹き抜ける風の中、お寺の横を抜けたりすると、まさに澁澤龍彦の、『深夜、お寺の墓を暴いて昔の武将のドクロを持ち出すと、お寺の中から石が雨あられのごとく飛んで来た』と言う、魔界の中でも歩いているようです。


それにしてもです、どこにも洪水らしきもの、ありませんねえ。栄養ドリンクまで飲んだのに・・・


もう全部終わっちゃったのですかね。


いつしか風景も、見慣れた家の近所へとやって来てしまいました。


ところでスニーカー君よ、おかげで命拾いしたんじゃない?僕は、てっきり今宵で君とはお別れになるんじゃないかと観念していたんだよ。

サバイバルとしては少し物足りなかったかもしれないけど、一緒に魔界を通ったりして楽しかったね。


これからも全国津々浦々、色々な場所に行こうね!