前号の後日談です。
僕のお弟子さんが美容クリニックの院長になったお祝いに、東方の三賢人なら何をたずさえて馳せ参じただろう?
僕の場合は、彼の売上に少しでも貢献すべくシミ取りレーザーを予約して、この顔を差し出すという事が贈り物だった訳ですが、早いもので、あれから3週間。今やほぼ痕跡のないところにまで復活いたしました。
とは言っても、一見、平和そうに見えている肌、皮膚下では大変な勢力争いが起きているようなのです。
それではこれより、皆様にそんな皮膚下の争いをお見せするべく、空想の世界にお連れしたいと思いますので、しっかり手すりにつかまっていて下さいね。僕の空想話は慣れていないと振り落とされる危険がありますので。
某情報筋からの極秘の情報。
『我が子のように大切にしていたシミを強制除去された皮下組織は、今、カンカンに怒っていて、彼らは、彼らの最高のエネルギー源である紫外線を大量に取り込み、再びシミの華、咲き乱れし世を復活させるべく、密かに巻き返しを企んでいるとの事。
それを未然に防ぎ、その牙城を木っ端微塵にする唯一の方法は、僅かな紫外線をも彼らに渡さぬ事に尽きる。以上』
なぬ!!今、僕はそんな闘いの真っ只中にいるのか!院長就任ご祝儀だとか、美容男子ってどうなの?とか、そんなのんびりした事を言っている場合ではないのですね。
とにかく僕に出来ることは何ですか?
『貴君の任務は皮下組織に僅かな紫外線をも渡さぬ事』
では冬の朝ですが、日焼け止めを塗りたくりましょう。このネズミ1匹通さない鉄壁の防御に、今頃、皮下組織どもは、さぞかし くやしがっているはずです。
ところが、この作戦を続けていけば、奴らの牙城を総崩れさせる日も遠くはないと誰しもが安心していた、そんなある日の事です。思わぬ盲点から彼らの手に紫外線が渡ってしまう事態が起こったのでした。
(これより更に空想の世界に入りますので皆様 しっかりとシートベルトをお締めください)
その朝、日焼け止め塗り係の兵士は、いつものように当番に付きましたが、毎朝繰り返される凡庸な、王様(僕)の顔の日焼け止め塗り作業に、実は内心すっかり飽き飽きしていたのです。でもその日はたまたま、この時間帯に、よくすれ違う当直明けの仲間とのバカ話がいつもより盛り上がったので、すっかり明るい気分になり思い出し笑いしながら向かった先が、事もあろうに王様の留守中、いつも隠れ二度寝に使っている倉庫内の簡易ベッド!
簡易ベッドに横たわってムニャムニャ気持ちの良さそうな、この兵士の頭の中は先程のバカ話でいっぱいで、王様の日焼け止めの事なんて、これっぽっちもなくなっていたのでした。
そんな事とは露知らぬ王様は、何にも塗らない無防備なすっぴんお顔で朝日の中へとお出かけしてしまったのでした。
千載一遇のチャンス!皮下組織どもが、この時を見逃すはずがありません。
実は皮下組織どもと裏で繋がっていた紫外線も皮下への門が開いたぞ!とばかりに、どっと襲いかかってきます。
ようやく事の次第に気付いた王様は、しまった!とばかりに孤軍奮闘。右から紫外線が襲いかかれば右腕でしっかと防御し、前方より襲い来る敵には顔を伏せてやり過ごします。