一世一代のサントリー大ホールでのドボルザーク・チェロ協奏曲の演奏会が、無事に終わりました!翌日は、ぐったりしようと、かねてより何の予定も入れていなかったので、久しぶりに独りランチなんぞをしましたよ。
近所のビストロにランチ時間ギリギリに滑り込んで、まずはビール。お店の人に、昼間のビールは良いですよねえと言われ、心から本当に!と思ったのでした。
そして夕方には、近所のお寺まで、ちょっくら散歩でもするかとぶらぶらとお出かけ。こういう時にしか通らない山に沿った小道には途中、階段があるので車も通りません。枯れ山でコゲラかなんかが木をコツコツする音が聞こえるくらいです。
まもなく階段にさし掛かろうかというその時です、階段から思いがけず黒い犬が、ひょっこりと顔を出すではないですか!紀州犬くらいの大きさでしょうか。首輪はしていますが、なんと飼い主の姿がありません。放し飼いの犬とすれ違うのは子供の頃以来ですが、あの頃は、いつも緊張したものです。
まっすぐこちらを見るこの犬、よく見ると口の周りに泡ぶくが付いています。
狂犬病?と一瞬身構えましたが、この現代の世にまさか!と思い直し、子供の頃よくやったように、敵意のない事を示すお人好しな笑みを投げ掛けてみますが、犬はこちらの好意を全く汲み取っていない事、明々白々な真っ直ぐな目付きで僕の事を見るや、いきなり「ワン!!」と侵入者にでも対するような失礼な態度で強く吠えたのでした!これには、あなたの家でなら、そのような吠えられ方されるの分かりますが、ここは公道ですよ、と一瞬抗議の気持ちも芽生え掛けましたが、あまりの予想外の強い吠えられ方に、本当は犬が恐いという事が犬にバレないよう長年工夫してきた精神的小細工が一瞬にして崩壊し、一気に腰砕け状態に陥ってしまったのでした。
そうこうしているうちに犬との距離はいよいよ縮まります。
僕の対犬用コンピューターは、残された距離と時間における犬に襲われるかもの可能性を目まぐるしく計算します。その時間、おそらく1~2秒でしょうが、この黒い日本犬の最新の目付きから判断して襲われる可能性が、あっという間に超危険ゾーンに達したため、僕は退却を決断。
簡単に言えば、一喝されて腰が抜けてしまったという訳です。
たまたま傍らには肩の高さくらいの低いブロック塀がありますので、そこによじ登って犬から逃れるか?とも考えましたが、裏道とはいえ人は通るので、大の大人が犬怖さに塀によじ登っているところを見られては、なんと弁解したら良いものか。
昔あった「青い目の子猫」という絵本をご存じでしょうか?犬怖さに猫達が木の上で震えているページが忘れられません。
こうなると残された選択肢は、ほぼ1つですね。
かつて北海道でヒグマの生息域で渓流釣りした事が数回あるくらいの事で、僕は偉そうに、ヒグマに出会ったら背中を見せて逃げちゃダメなんだなどと人に講釈していたものですが、それがどうでしょう!
なんと僕は黒犬に背中を見せて逃げ出したのです。
しかしどんなに選択肢が無くなっても、数字が永遠に2で割れるように、僕にはまだ選択肢があるのでした。
それは、逃げているのか単に移動しているのか、犬が判別に苦しむような微妙なスピードで大股で進むか、本気で走って逃げるか?僕は今、微妙なスピードで逃げつつも振り返って犬の様子を見ると、幸いにも特に猛り狂って追って来るようでもないので、ひとまず本気逃げ案を凍結して、なんとなく作戦で我が敷地内まで逃げ延びました!
ここまで来れば、木に登ろうと人には見付からないのでなんでもやれますよ。
我が陣地から黒犬に見付からないよう観察していると、興奮した犬は向こうの方に物凄い勢いで走り去って行きました。
怖々、道に出て走り去った方を見ると、もう姿も見えませんので、物陰から躍り出るかもという可能性は無きにしもあらずですが、そんな事にびびってどうすると、今更ながら強気になって(賭けですが)とりあえず散歩再開。
ほどなくして先程の階段に差し掛かると、息を切らした飼い主らしきご婦人とすれ違ったので、黒い犬をお探しですか?
はい!どちらに行きましたでしょうか?
その犬なら左の方に行きましたよ!と腰が抜けた事はお首にも出さず注進。
飼い主登場で、すっかり安心した僕は、その後、お寺をぶらっとして家路に着いたのでした。
まだ咲ききらぬ梅の木の、面白き枝ぶりかな。
『男の顔は履歴書である』
犬が怖いって事、顔に出ていますかねえ。

