今回のブログは少し長いので、三部構成で「本題」→「脇道」→「本題」と、ソナタ形式のようにしてみました。



今年の春先、横浜ゲーテ座で演奏した時の事です。別の部屋で展示をされていた旧知の方に偶然お会いし、その方から、今度、画家エゴン・シーレ関連の展示をやるので、それにふさわしい無伴奏の曲を30分ほど弾いて下さいという嬉しいお話しを頂きました。
ほどなくしてスケジュールや曲目も決まり、特に連絡を取る必要もないまま当日を迎えた訳ですが、どんな感じの会なのか?という事だけが、いつまでも霧の中なのでした。
客席に聴衆がいらっしゃる普通のコンサートなのか?お客様は大勢なのか?関係者だけなのか?
あるいは1点だけ飾ってある本物のエゴン・シーレの絵の前に、熱狂的な人々が目に涙を溜めてうずくまっているような会なのでしょうか?その横で嗚咽に包まれながら弾くとか?

いつもの楽屋口にシャッターが降りているので不安微増。仕方なく正面から入館しようとすると、受付けの方に入館料300円ですと言われました。

もしかして今日じゃなかったのか?
今日、演奏するために来た者ですが、と言ってみても、こんなお答えを頂くかもしれません。
「こちらではちょっと分かりかねますので、中で聞いてみて頂けますか? ・・・・・入館料は300円です」



受付けの方という事で、関係のない話しですが、ひとつ、どうしてもお話ししたい事があるので聞いて下さい。
この話しは、僕の格好悪かった話しのNo.2として、今も燦然と輝いているものです。

僕は幼き頃より、人間、外見で判断すべからず、大事は中身なり!という思想でやって来ました。何かのお話しで、みすぼらしいお爺さんが実は神様でした!みたいなすり込みがあったのでしょうか。(講談で、実は将軍お気に入りの天下の竹細工職人が、ボロボロの格好なので宿になかなか泊めてもらえず。しかし細川の殿様のお列が通りかかった事が元で身分が明かされていく、という様な痛快などんでん返し話しが大好きなのです)

脇道の本筋に話しを戻します。

その様な訳で、外見軽視の僕は長く「アンチ・ゴールドカード」派でした。それが、どうしてしまったのでしょう!ある日、急に、ちょっとだけ偉くなってみたくなってしまったのです。
パソコンで、各カード会社ゴールドカードのサイトを見てみると、空港お客様専用ラウンジのまばゆい写真が沢山ありますねえ。選ばれし者の世界を垣間見るようでウットリとしてしまいます。へえ、いつ行くかわからないけどホノルル空港にもあるんだあ。こういう所では、ニコニコされながら飲み物とか、もしかしたらスモークサーモンとかも出してもらえるのかなあ?これで僕も大人の男の仲間入りだな!とか偉くなった自分を想像してみては、夜の更けて行くのも忘れて、ぽわわ~んとなるのでした。
一方で、かつてお前は、くつろぐ時間があるほど早目に空港に着いた事が1度でもあるのか?という小さな声も聞こえてきますが。
そして数週間後に届いた航空会社系ゴールドカードを財布に、今日から、ついにワンランク上の男になっちゃって、
いいーんですか?いいーんです!等と張り切って羽田空港国際線ターミナルへ向かうのでした。


嬉嬉としてゴールドカードを差し出す僕に
受付嬢は「お客様、このカードでは当ラウンジはお使い頂きかねます」

『頂きかねます』?

突然のダメージを受けた為に、変チクリンな笑みを浮かべた僕は、退却する前にせめて聞き返してみました。
「どんなカードだと入れるのですか?」

『一定のマイルを貯められた方か、プラチナ・カードなど』・・・

そうですかあ。

こうして僕のゴールドカードは初戦で地に落ちたのでした。


さて、話しを本題の横浜ゲーテ座の受付けに戻しましょう。
『致しかねます』的な対応を覚悟していたら、その方、背後の男性に取り次いで下さり、男性の方が、飛んでこちら側に出ていらっしゃると、なんとその方はゲーテ座の館長さん!
自ら、僕にも馴染みのある楽屋にご案内下さり、部屋の温度等にも気を使って頂くという丁寧な対応と素敵なお人柄に、一気に不安は消し飛びました。
さらに旧知の主催者にもお会いし、今回の展覧会の主役である、お二人の女性画家をご紹介頂くと、その方々の品格のあるお人柄で、いやいや全くの良い気分になってしまいました!
お1人目の品の良いおば様は、宮崎郁子さん。
画家というより、人形制作家のようでした。
エゴン・シーレに心酔されて、その絵を元に人形を作られているようですが、それが凄い。
例えば、このようなシーレの元の絵が

宮崎さんの手にかかると、このようになります。

他にも




素晴らしい迫力で、ぐっと来ます。
あの品が良くて、にこにこされているおば様の内面に秘められてるパワー、凄いです。

そしてもうひと方は、山内若菜さんとおっしゃるお若い方でした。

大きな絵を、それも放射能で汚染された福島の牧場を描かれているようで、こちらも迫力物です。今回、僕は畏れ多くも、その両迫力作品に挟まれて弾かせて頂いたのでした。

エゴン・シーレの雰囲気に合った無伴奏作品をという事で、コダーイ、バッハ、ヒンデミットから演奏しましたが、アート作品の傍らに座ると、優しい空気に包まれて、とても弾きやすかったです。お二人の画家にお会いした瞬間から、僕は気持ちの良い方々だなと感じていたので、その作品達も僕に優しくしてくれたのでしょうか。反対に相性が悪いと、どんなに表面上、美辞麗句で飾っても、芸術作品や、時には犬は騙せないかもしれませんね。犬は飼い主の心を読んで僕に唸るでしょうし。

山内若菜さんが、その場で描いて下さった、演奏中の僕です。


霧の中から、思いがけず素敵な芸術作品と作者が飛び出して来た一日でした。