僕は、よくお客様と膝を突き合わせそうな空間でサロンコンサートを行ないますが、そういう場所では最前列の方々とは、僕からの一方的な気持ちですが、とても密な関係になります。演奏をしていると、その方のお顔を見ていなくても、透視というのですか、なんとなくどのような方か感じられてくるものです。もちろんお名前や家族構成等はわかりませんが。
熱心に聴いて下さっている方には、精神的に励まされ、いつもより上手く弾けたりします。反対にお義理でいらして下さっているとか、例えば来たくないのに仕方なく奥様に連れてこられた旦那様のような場合には、そこだけ早く終わらないかなあオーラが出ていて、実は、このような方との一方的な精神的闘いを征せるかどうかが、演奏家にとって、その日のコンサートを成功に導けるかどうかの大事な鍵になってくるのです。
ある日のサロンコンサートでの前半の時です。最前列に老夫婦がいらっしゃいますが、ご主人の方が度々、睡魔に襲われていらっしゃるようで横倒しになりかかったりしています。
そんなに退屈なのか、やる気が失せるなあという気持ちが心に芽生え始めては、いやいや他の99%の方々は聴いて下さっているかもしれない、投げちゃいけないぞ。
あっ、今、自分としては最高に上手く弾けたと思ったのに、あの方はプログラムの裏面を読むべく、正にこのタイミングで裏返したりしている!今のところ聴いてくれていなかったんだ、めげるなあ・・・だから!!聴いている方は必ずやいらっしゃるから、その方のために引き続き頑張れ!あっ、あの人、今、確かに腕時計見たよね?きっと、こんなつまらない演奏会早く終わらないかなあと思ってんだよ・・メゲルナッ!メゲルナッ!集中!!
とまあ、こんな具合に演奏とは別回路で、盛んに自問自答を繰り返しているのです。
ところが、この日、大変心に残る経験をしました。
後半の黛敏郎作曲 無伴奏チェロのための「文楽」を弾いている時です。曲も最後の畳み掛けるような激しいところに差し掛かり、技術的な崩壊をしないギリギリの線で激しく弾こうとてんてこ舞いしていると、先程まで眠っていらしたお爺さんが、やんやと拍手して下さっているではありませんか!!そのお姿、目を疑いました。嫌ではなかったです。嬉しかったです。しかし、あのお、まだ弾いているんですけど・・・
わたしゃ、花火かいな。
夏の花火大会の最後の辺りって、全部持ってけえとばかりに色んな花火がドンドン、ボンボン、パパーん、パリパリと折り重なるように打ち上げられますよね。そんな時、僕はやんやと拍手しながら感涙にむせび泣きますが、まさに、僕がその花火でお爺さんが砂浜に座っている観客でした。
いやあ、なんたる原始の感情表現!!退屈な時は爆睡、感激した時は拍手。楽章の間の拍手禁止どころか曲の終了を待たず、曲中でも感動した時に拍手する。
人間、こうでなくちゃと教わりました。
お爺さん、ありがとうございます。こちらのほうこそ、感激しました!!