98歳の指揮者、ブロムシュテットさんが振られた3つのN響定期演奏会が終わりました。
98歳になられても仕事への、あるいは音楽を人前で奏する事への凄まじいプロ意識と執念を感じました。
昨今はスマホで、いつでも何処でも気軽に音楽が聴けるので、わざわざレコードに慎重に針を落とし、頭を垂れて巨匠の演奏を聴くなんて事は、ほぼなくなりました。深い曲をじっくり聴くのが時代のスピード感に合わなくなってきたのでしょうか。
そんな中、コンサート・ホールに足を運んで下さるお客様に、じっくりとブラームスやベートーヴェンのような古典を聴いて頂くには、世の流行りの中に仁王立ちするような強さが求められるのではないでしょうか。そうしないと、どうしても軽いものが好まれる今の世の中の嗜好に影響されたブラームスになってしまうような気がするのです。
その点、ブロムシュテットさんは心配無用ですよ!
リハーサルの時の集中力の凄さ。
少し、にこやかな表情で曲の事をお話しされた直後、再び曲の冒頭からやりましょうと、
「 very beginning!」
と我々楽団員に告げたと同時に一瞬にして笑顔が消えて真顔に戻るのの速いこと!!あまりの速さで真顔に戻られるので「ええ、また最初っからかあ」等と言う我々の甘えた気持ちなんぞは芽生えの前段階で木っ端微塵。ぐうの音も出ないとはこの事か。
ブラームスの価値を、これっぽっちも疑わない強靭な信念と集中力。
今年もブロムシュテット健在なりです!
そういえば昔のN響の事務局の方の本に、こんな事が載っていたのを思い出しました。
ブロムシュテットさんとホテルの部屋で契約の交渉をしていると、なかなか妥結点が見付からず、そうこうするうちに夕闇がせまり部屋が薄暗くなり、こちらは書類の字が見えなくて難渋するもブロムシュテットさんは、全く意に介せず、暗い中で交渉は根気よく続いたそうです。
広島県は宮島対岸で名物「穴子丼」をご馳走になり外を出ると、辺りはもうすっかり夜。
今日は近くの廿日市文化ホールでチェロ・リサイタルでした。僕もブロムシュテットさんを見習って、ベートーヴェンのチェロ・ソナタをがっつりと弾いてきました。
そう、そして今宵の宿は、なんと目の前の海を渡ったところにある宮島なのです!
これは主催者さんの粋な計らいなのですが、こんな遅い時間から宮島に渡るなんて人は、塾帰りの島の子供達と、謎の楽器を持った男の人、すなわち僕の他は、あと数名だけ。

さてさて、あっという間に到着しました。宮島に渡るのは初めてなのでリサイタル後の疲労を感じながらもワクワクして、チェロを背負い、重い旅の荷物をゴロゴロと引きづり、宿へと歩きます。途中、暗闇に鹿がいたりしてビックリ。

宿に着くと、朝早い新幹線で広島まで来てリサイタル頑張ったので、気持ち良く眠る事が出来ました。
翌朝は早速、有名な厳島神社に行ってみました。潮が満ちていたら、もっと面白い景色なのでしょうね。
神社の裏の方も散歩しましたが、歴史と趣きが感じられて、とても良かったです。今回は時間があまりなかったのですが、次回、宮島に来る事があったら、もっと奥地にも足を伸ばしてみたいものです。あと満潮の時の厳島神社も見てみたいなあ。

さて神社周りの散歩を終えると、大勢の観光客を満載して次々と宮島にやって来るフェリーに逆行する、またもやがら空きの便で、僕は対岸へと戻ります。
船着場には、今日の目的地まで、僕を車で送って下さる方が待っていらっしゃるはずなのです。
その方には以前にもお世話になったのですが、どこそこで待ち合わせとピンポイントではお約束していません。ざっくりし過ぎて無事会えるかな?と少し心配でしたが、何しろこちらは唯一無二の目印を背負っております。すぐにお声をかけて頂き、無事、車上の人と相成ったのでした。
さて車が走り出すと早速、色々な話に花が咲きます。これからの数時間が楽しく過ごせそうですよ。
はてさて数時間?今から僕は、どちらへ行くのでしょう?
それは目の前ですよ。
目の前の中国山脈ですよ。
ここを車でずっと行って県境を島根県側に入ると、家々の瓦が赤茶色になってきますねえ。明らかに広島とは違う雰囲気です。
ここでは天気が良くて、あたりが明るくても、それに騙されてはいけませんよ。付近の清流には特別天然記念物オオサンショウウオが棲み、昼なお妖氣漂う神の国。
そんな土地に、ご先祖さまの頃より大切に守られてきた立派な立派な古民家があるのです。
今宵、僕は、そこに泊まります。
しかも、たった独りで・・・
車は中国山脈の奥へ奥へと入って行きます。
この先、僕はどうなってしまうのでしょう!
次号へ、乞うご期待!