【Lost In New Generation】

―――僕は何処に?

 ―――僕は此処にいる

―――聞こえますか?

―――感じてますか? 

―――僕の声を………


「アンタの瞳があんまり素敵だったんで、つい見惚れちまったんでさァ、、、悪い事ァ言わねーから俺と付き合ってくれやせんかねィ?」

普段と変わらぬ気安さと軽口(くちぶり)ながらも本心からの告白を発したつもりだった。

「……お前さんも物好きだな~…オイ。こんな天パの何処が良いんだ?」

肩を竦める仕草と同時に僅かな溜め息を溢しつつ、相変わらず感情の読めない顔で茶化すような返答を返してきた旦那に言い知れぬ想いを抱く。ある程度、予想はしていたものの、仄かな期待を裏切られるように告げられる言葉に途端、胸が痛み出す―――

珍しくも周りに障害らしい障害も何もなく、常ならぬ程にのんびりとした様子の旦那を独占する事に成功し、もしかすれば受け入れてもらえるかもしれない…と心を震わせた出掛け先での出来事であった。

不意に俯きがちになる俺の態度をどう受け取ったものか、人通りの増え始めた駅のホームで目の前の相手は徐(おもむろ)に俺の髪を柔らに撫で始めた。

「、、、、、、?」

視線を無機質なコンクリートの地面に落としたまま、脳が追い付かずにポカンとなったその刹那……

伸ばされた腕によって逞しい胸元へ抱き寄せられ、瞠目しつつもおずおずと見上げた先にある旦那の頬は傍目にも解るほど赤く染まっていた。

「……俺のものになれよ」

「…――――ッ…!」

キツく抱き留められたまま、抱擁を強めてくる腕と手指に腰から大腿までを繊細に撫で上げられ、堪らず情欲を帯びた声色を洩らしそうになる。

「俺も…お前の事が好きだ、、、愛してるって言葉の意味、これから嫌になるくらい身体に教えてやるからな。……覚悟しとけ」

そう耳元で優しく囁かれた俺もまた感涙に咽(むせ)ぶ思いで火照った肌を旦那の鍛えられた背筋に辷(すべ)らせ、より深く密着する熱に浮かされるように唇を奪われた―――


【窮地に一生を得ず】

「…………っ、、、」

混乱の最中にある江戸市中の人間達の警護や誘導で手一杯となった同胞らを差し置き、単身で敵の拠点である監獄へ潜入したのが運の尽きだったのか―――…

存外に横の繋がりが深かった攘夷派を騙(かた)るテロリスト共により、人質に取られていたと思われた天人(あまんと)までもが実際には連中の共謀者である事実を知り、何がどうしてこうなったものか…気付けば辺り一面を取り囲まれ、四面楚歌の如き状態に我ながら呆然としてしまう。

至る所に負った傷口から溢れ出る血と痛みに知らず諦念めいたその直後………

「おーおー、テメーらがあんまりギャーギャー騒ぐから俺の股間がおかしくなっちまったじゃねーかコノヤロー、、、ところで総一郎く~ん。お前、昨日から姿が見えねーと思ってたらこんなムサい場所で独りプレイしてやがったのか。……お前が一体、誰のものなのか……躾直し決定だなコリャ」

欠伸を噛み殺しつつ下世話な言動で現れ、気怠げな雰囲気とは裏腹に剣呑な光を瞳に宿し、殺気に満ちた勢いで刃向かってくるテロリスト共を愛用の木刀で片手間に打倒していく銀色の侍に驚嘆の念が隠せなくなった。

「(---だ…ん、、、な……)」

安堵を覚え緩んだ拍子に意識が徐々に混濁してしまい、その後の記憶は糸を切らすように途切れた―――


「ここまで来りゃ、あとは適当に遣り過ごせんだろ、、、」

「…ア、ンタ…何で、俺の居場所が……」

「あん?別にお前の為に来てやった訳じゃねーよ……ってのはテンプレで本当は無理・無茶・無謀の誰かさんをたっぷり視姦してやろうって魂胆で駆け付けた、って感じだな。

どうせならアイツらに便乗してメチャクチャにしても良かったんだけどよ、、、惚れ直したか?これでもなかなかの白馬の王子様っぷりだと思うんだけど~?」

「ハハ…呆れてモノが言えませんや、、、」

救出されたにも関わらず、きまりが悪くなり、残党を撒く為に潜り込んだ路地裏で至近距離からの悪態を吐く俺をやんわりと腕の中へおさめた眼前の男の唇と声が掠め取るように俺の鼓膜を包んだ。

「…お前は俺が護る。もう俺ァ、誰も失いたくねェんだよ…―――」

労るような仕草に反し廻された腕は次第に力強さを増していき、やがて息も止まる程の熱く切ない抱擁を受けた―――


【ハネムーンを探して】

『『俺―――坂田銀時と沖田総悟は本年の10月10日にめでたく結婚致しました。つきましては二人で力を合わせて明るい家庭を築いていこうと思うんで厚意のご祝儀を是非ともはずんで下さい(下せェ)。

旦那と俺より親愛を込めて―――」

「アイツら…今頃どんだけ満喫してんだろうな~…あ-----!!!!俺も早くお妙さんと水入らずの浪漫飛行がしt」

近場とも遠方ともつかぬリゾート地から一足遅く送信された画像付きメールを覗いたゴリr…げほ、愛のハンターが想いの丈を咆哮するちょうどその頃―――

夜景の見える小高い丘を背景に望み、自分達に宛がわれたささやかな宿泊施設にて濡れた捨て犬を抱き上げ、そのヤンチャ加減に不覚にも振り回される二人組の姿があった。


一通り世話を焼いた挙げ句、捨て犬と思われていた子犬は結局、付近を散策していた老夫婦の飼い犬である事が判明した為、宿泊施設の管理人らの手によって無事に飼い主のもとへ戻されたのも束の間、、、頻(しき)りに礼を述べてくる飼い主側からの心付けもあり、彼らの滞在する別荘へ招かれ食事を共にした後に元のリゾート地へ戻ってきた旦那と俺は揃って軽い疲弊を感じた。

「とんだ新婚旅行になっちまったな」

「全くでィ」

などと呟き、癒しを求めて露天の湯殿へ脚を運んだ。

「ふ~い…」

「アンタも濡れると髪がぺしゃんこになるですねィ。そのまま腑抜け続ければ念願のサラサラヘアーも夢じゃないんじゃねェですかィ?」

「ヘイヘイ…毒舌なら後回しにしてくれ、、、銀さんもう疲れてっから……ところで何で混浴風呂に浸かってなきゃなんねーの?俺ら、、、」

「仕方ねェでしょう。たまたま商店街の福引きでペア宿泊券が当たったおかげで格安の旅行が手に入ったんだから。この際、野暮な事は言いっこなしですぜィ」

「ったく。まぁ…いいか、、、ところでお前、肌柔らかそうだな。……触っても良いか?」

言うが早いか距離を縮め、湯船を揺らしつつ背後から俺を抱き竦めて背中に舌を這わせる相手の隙のなさに身体がピクリと身動ぎ、欲に濡れた吐息が洩れてしまう。

「っ…は、ぁ、、、」

「あ~…ヤりたくなってきた。悪ィ…もう我慢出来ねーわ。今夜は寝かさねェからな……」

「『今夜も』でしょうがィ、、、」

「不満なのかよ?」

「んな訳ねーだろィ…待ちきれなさ過ぎて俺の方が欲求不満でさァ」

降りかかる熱情と愛撫に余裕を奪われていく一方、誘い受けの姿勢になる俺の顎を長い指先で上向かせ、濡れそぼった前髪を空いた手で掻き上げた相手は次いで繰り返される激しいキスの合間にポツリと睦言を交わした。

「…愛してる。―――お前と結婚して良かった」

視線の交わる中、重なる二人の影は色褪せる事なく湯船に反映された。

~END~