<概略>(Amazonより引用)
- 「今、世界で起きていること」「これから日本におきること」がわかる 地政学×経済学の決定版! 経済が戦争になり、戦争が経済になる。今や日々の生活と安全保障は地続きであることを本書は示す。小泉悠氏推薦(東大先端科学技術研究センター准教授)なぜ、資源を知るために“貿易”や“世界秩序”への理解が必要なのか――複雑化するエネルギー問題を、国際情勢や地政学的要素を経済から捉え直す。終章に細谷雄一氏(慶應義塾大学法学部教授/地経学研究所 欧米グループ・グループ長)との対談を収録 《本書の構成》●序章 なぜ、今「地経学」なのか ●第1章 資源を巡る現状と「相互依存の罠」 ●第2章 中東情勢とエネルギー問題 ●第3章 半導体という戦略物資でみる経済安全保障 ●第4章 国際秩序と自由貿易 ●終章 資源、戦争、貿易――世界の見取り図をどう手に入れるか 細谷雄一氏(慶應義塾大学法学部教授)との対談
<備忘録>
- 中国は政治・外交と経済を区別することなく、政治・外交目的のために経済を用いる方法を取ってきている(政経融合)。
- 「ハイ・ポリティクス」の対立と「ロー・ポリティクス」の相互依存が同時に成立するという矛盾の中で生まれてきたのがES(エコノミック・ステイトクラフト)であり、「経済的手段を用いて、国家の外交的・戦略的な目的を達成すること」と定義できる。
- ESに対し、どう備え、どう対抗するか。グローバルに国際社会を1つの市場として捉えるだけでなく、むしろそれを部分的に断ち切る(デカップリング)ことで自国の安全を確保することが、経済安全保障。
- 民主主義国と権威主義国との間には、3つの「相互依存の罠」が存在する。第一の罠が「市場経済が民主化を招く、という思い込み」、第二の罠が「デカップリング出来ないサプライチェーン」、第三の罠が「相互依存を断ち切ると返り血を浴びてしまう」こと。
- 第一の罠:西欧諸国が作り上げた“部分的な”世界経済秩序に価値や規範の異なる国を含めたグローバルなサプライチェーンが構築された。
- 第二の罠:そうした国と対立しても経済的な相互依存は容易に解除できないという状態が生まれ、「政経分離」という手法を取らざるを得なくなった。
- 第三の罠:「政経分離」が可能だという幻想を各国が破壊し、「政経融合」、つまり政治目的のために経済を武器にするという選択をするようになった。
- 価値や規範が異なる、敵対的な国家との間で相互依存関係ができるとしても、戦略的に重要な物資や技術(戦略物資)に関しては、それらの国に依存してはならない。例えば、先端半導体を作ることができる能力は、そのまま軍事的優位性に直結する問題であり、半導体製造能力を巡る問題は国際政治上の問題として認知されている。
- 先端半導体の問題は、経済的・技術的な手段を使って中国への製品や技術の移転を阻止することで地政学的な優位性を保つことができるという、まさに「地経学」的な問題。
- 日本としては、信頼できる取引先との関係を強化して、グローバルなサプライチェーンの中で重要な役割を果たすこと。経済安全保障における「戦略的不可欠性」を持つこと、つまり日本なしではサプライチェーンがつながらない状態を保つことが、他国からの経済的威圧を抑制し、サプライチェーンを安定させる効果を持つ。
- ESは国内の企業や経済活動に何らかの経済的損失を伴うことがあるが、これは経済問題ではなく外交安全保障分野での問題であり、それによって生じる損失は、戦争やESを行わないことで被る不利益よりも小さい、と主張することが必要となってくる。
- ESを実施することで、対象国は代替手段の開発や自国での生産を強化することになり、結果として相手が脆弱性を低めるために依存から脱却する状態を作り出す。「ESのパラドクス」のような状況が生まれる。
- ESは意図を持って経済的手段を通じて影響力を行使し、自国が望む結果が得られるかどうか(攻め)。それに対し、経済安保は他者による意図的な行為であれ、非意図的な現象であれ、国家の存在を脅かす事象に対処することが目的(守り)。
- デカップリングが進み、相互依存の状況がなくなれば相手に対して圧力をかけることが出来なくなる。そのため、むしろ積極的に他国を自国に依存させるような措置こそ、経済安全保障戦略として適切である。
- 本来の経済安全保障は、「自国の弱み(脆弱性)がどこにあるのか」を把握することが重要。現代は情報も含めあらゆるものが武器になり、リスクになり得る時代。
- ポピュリズムの嵐が永遠に続くとは考えにくく、「自国ファースト主義」の国々が主張し合う国際秩序は持続的なものにはなりにくい。
- 現在、目の前で起きていることは「dynamic」(動的)に見えるが、実際は「static」(静的)。静的といっても決して平和ではないが、何となく大崩れせず続いていくようなイメージ。
<考察>
- 米中対立に関して、中国はトランプ1.0の際にはまだ準備が整っておらず、米国からの各規制・関税に対して報復関税等で対抗し、貿易戦争を招く結果となった。その後、中国は8年をかけて国家主導で戦略物資への投資、自国の脆弱性を低め、グローバルなサプライチェーンの中で戦略的不可欠性を築き上げ、今日、「政経融合」即ちESを有効な手段として使用できるに至っている。
- 自業界で言えば、まずEVバッテリーに不可欠な重要鉱物のサプライチェーンは中国抜きでは成立しないが、それだけでなく、現在は多くのサプライヤーが中国に工場を持っており、とてもしたたかに相互依存の第三の罠までをしかけていると言える。
- 自業界及び自社も「中国リスク」は当然認識しているが、現実として、100%中国をデカップリングすることは不可能である。自社としては、「発生可能性」と「影響度」を軸に何がリスクが高く、何が相対的に低いのかを見極めつつ、“デリスキング”の領域と“デカップリング”の領域を区別して、優先度を決めて対応していく必要がある。(一部、既に取り組んでいる)
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「経済安全保障」に関しては、従来は「経済合理性」が唯一の判断軸だったのが、「経済安全保障」が二本目の判断軸になりつつあると感じる。この二本目の軸は、個々人が持つ情報の内容・深さ(情報の価値)で判断が変り得る。
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“情報の価値”に関しては、情報を得るための金銭的な価値と企業にもたらす非金銭的な価値が存在する。金銭的な対価として得た情報を分析し、深みのあるものとし、経営層に対してしっかりと非金銭的な価値を発信・共有していくことが自身の今の役割と認識している。
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特に経済安全保障に関する案件は、いくつもの部署が少しずつ責任を負うが、全体の取りまとめ、全体の責任を負う部署が存在しない。そのため、初動が遅れたり、狭間問題となり動きが遅くなってしまうことが往々に起こってしまう。自身としては旗振り役となり、全社視点・全体最適で課題を提起しつつ、伴走役として推進するよう心掛けたい。
=========[引用開始](p11)=========
ハイ・ポリティクスとは軍事や外交、国家の安全保障にかかわる政治であり、ロー・ポリティクスとは通商や貿易、通貨など経済関係にかかわる政治上の交渉を指す。
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=========[引用開始](p14)=========
中国にとっては政治・外交と経済をあえて区別することなく、政治・外交的目的のために経済を用いる方法が例外的なものではなくなってきたのである。
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=========[引用開始](p16)=========
こうした「ハイ・ポリティクス」の対立と「ロー・ポリティクス」の相互依存が同時に成立するという矛盾の中で生まれてきたのがESである。ESにはさまざまな定義があるが、第3章で詳述するように、ESは一方では「手段」としての側面があり、その手段は経済的なものであるが、他方で「目的」は対外政策や何らかの政治的意思を強制することに設定されている。共通しているのはやはり「経済的手段を用いて、国家の外交的・戦略的な目的を達成すること」と集約することができるであろう。
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=========[引用開始](p17-18)=========
中国に限らず、相手国が政治的な意思を通すために経済的手段を行使するESに対し、どう備え、どう対抗するか。これが経済安全保障の根底にあるのだ。そしてグローバルに国際社会を一つの市場としてだけ捉えるのではなく、むしろそれを部分的に断ち切ることで自国の安全を確保しよう、というのが経済安全保障である。
(中略)
そうした状況下で、いかに相手からの影響力を抑えながら、円滑な経済活動を続けるかという矛盾や葛藤を、コントロール可能な範囲で制御しようというのが、経済安全保障と言えるだろう。
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=========[引用開始](p30)=========
ブレトン・ウッズ体制を基礎とする自由貿易秩序は、主として西側諸国の秩序であり、政治的に協調関係にあり、価値や規範を共有する国々の間で作られた「部分的な世界秩序」であった。
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=========[引用開始](p32-33)=========
第二の相互依存の罠とは、第一の相互依存の罠にはまり、深い相互依存関係になった国際社会において、期待されていた民主化が進まず、「国家資本主義」の国家が早く経済危機を脱し、民主主義的国家での経済危機が長引く中で、国家資本主義国家との経済関係を維持・拡大せざるを得なくなったということを意味する。
第一の相互依存の罠によって、グローバルなサプライチェーンが構築され、世界経済秩序に価値や規範の異なる国が共存する状態が生み出された後に、西側諸国が第二の相互依存の罠にかかったことで、価値や規範の異なる国と対立しても、経済的な相互依存は容易に解除できない、という状態が生まれたのである。
状態で、西側諸国は「政経分離」という手法をとらざるを得なくなった。
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=========[引用開始](p34)=========
第二の相互依存の罠への対策として、西側諸国では敵対する国家と相互依存を深めても、経済は国家案関係として別のロジックで運営されるという「政経分離」が基調となったが、第三の相互依存の罠の始まりは、「政経分離」が可能だという幻想を各国が破壊し、「政経融合」、つまり政治目的のために経済を武器化するという選択をするにようになった、ということである。
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=========[引用開始](p49-50)=========
価値や規範が異なる、敵対的な国家との間で相互依存関係ができるとしても、戦略的に重要な物資や技術に関しては、それらの国に依存してはならない、という教訓であろう。
(中略)
つまり、第三の相互依存の罠にはまっている状況では、相手への依存を減らす一方、相手が自国に依存する状況を強化することが重要となるのである。
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=========[引用開始](p115)=========
近年の「戦略物資」はより広い範囲での安全保障にかかわる物質を含むようになった。
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=========[引用開始](p116)=========
それまでの政治的な経済介入のあり方は、主に「政治が経済に介入するのはあくまでも自国の産業を守るためである」というように、自由貿易に対する保護主義の観点からなされることが多かった。ところが中国は「相手国への政治的・外交的圧力をかけ、行動変容を迫るために経済を武器に使う」姿勢をあからさまにしたのである。
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=========[引用開始](p120)=========
一般の電子製品に使われるものは28~60nといった線幅のものが多く、自動車部品で使われるものは28nが多いが、スマートフォンやデータセンターのサーバ等の高性能半導体は5n以下のものが使われることが多い。先端半導体と汎用半導体の境はその時の技術水準で決まるが、現在では14/16nが分水嶺としてみられている。
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=========[引用開始](p122)=========
先端半導体を作ることができる能力は、そのまま軍事的優位性に直結する問題であり、ゆえに半導体製造能力を巡る問題は、国際政治上の問題として認知されているのである。
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=========[引用開始](p124)=========
半導体製造の原料となるニッケル、ゲルマニウムなどの重要鉱物は中国がシェアを持っており、半導体素材は日本のシェアが大きい。さらにここで注目すべきは、中国は原料にこそシェアがあるものの、製造工程においてはこうしたグローバルな分量体制に組み込まれていない、という点である。
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=========[引用開始](p124)=========
先端半導体の開発を制約されている中国は、戦略を変更して汎用半導体への積極的な投資を進めている。過剰生産とも言える状況を作り出すことで、汎用半導体の価格を下げ、西側諸国の汎用半導体を作るメーカーを市場から駆逐し、独占的な状況を作ろうとしていると言われている。
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=========[引用開始](p125)=========
つまり、経済的・技術的な手段を使って中国への製品や技術の移転を阻止することで地政学的な優位性を保つことができるという、まさに「地経学」的な問題なのである。
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=========[引用開始](p132)=========
重要なのは、日本が信頼できる取引先との関係を強化して、グローバルなサプライチェーンの中で重要な役割を果たすことである。そうすることで、他国が何らかの形で経済的威圧を仕掛けてきた時も、日本からの供給が失われれば世界の半導体供給に影響を及ぼすことになり、他国にとっても不利益を被ることにつながるため、日本に圧力をかけづらくなるのだ。
こうした経済安全保障における「戦略的不可欠性」を持つこと、つまり日本なしではサプライチェーンがつながらない状態を保つことが、他国からの経済的威圧を抑制し、サプライチェーンを安定させる効果を持つのである。
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=========[引用開始](p137)=========
ESは経済的手段によって他国に対して強制的な措置をとることで、他国の行動を変容させ、特定の政策をとるようになることを期待している。つまりESは対象国の行動変容を目的として実施される。
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=========[引用開始](p138)=========
さらに、その他の国に対して、ESに参加・協調するかどうかによって、敵か味方かを峻別することが可能となる。その意味で、このアナウンスメント効果は国際社会における秩序を再確認し、その秩序の中で自分がどの位置に立っているのかを明らかにする効果を持つ。
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=========[引用開始](p139)=========
ESはしばしば他国に対して経済的な手段を用いることで、国内の企業や経済活動に一定の制限をもたらし、何らかの経済的損失を伴う。そうした損失に対して国家は何らかの補塡をすることが求められるが、同時に、これは経済問題ではなく外交安全保障分野での問題であり、それによって生じる損失は、戦争やESを行わないことで被る不利益よりも小さい、と主張することが必要となってくる(これは通商の「安全保障化」とも言えよう)。
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=========[引用開始](p141-143)=========
ESが効果的に発揮されるための第一条件としては、グローバルなサプライチェーンの中で、特定の国家が生産する品目に対して、対象国が強度に依存している状態があることが挙げられる。
(中略)
第二の条件としては、依存と脆弱性という観点から見ると、「市場の大きさ」も重要である。
(中略)
第三に、アメリカが持つ国際基軸通貨、決済通貨としての米ドルに多くの国が依存していることも「脆弱性」を高め、ESを有効にする条件となっている。
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=========[引用開始](p145)=========
ESを実施することで、対象国は代替手段の開発や自国での生産を強化するといった選択が多くみられる。これは、ESを実施することで、相手が脆弱性を低めるために依存から脱却する状況を作り出すことを意味する。いわば「ESのパラドクス」のような状況が生まれる。
つまり、対象国が依存をしていることでESは効果を発揮するが、その経験を経ることで依存を下げた結果、ESの有効性も下がるということだ。
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=========[引用開始](p146)=========
ESは国家の主体的な行為として他国に対して何らかの意図を持って、経済的手段を通じて影響力を行使し、ESを発動する国家の望む結果が得られるかどうかが問題になるのに対し、経済安保は他者による意図的な行為であれ、災害などの非意図的な現象であれ、国家にとってその存在を脅かす事象に対処することが目的となる。
両者の違いを一言でいえば、ESは「攻め」の姿勢であり、経済安保は「守り」の姿勢だということだ。
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=========[引用開始](p155)=========
デカップリングが進み、相互依存の状況でなくなれば、相手に対して圧力をかけることもできなくなる。ゆえにデカップリングは経済安全保障の戦略としては不適切なものであり、むしろ積極的に他国を自国に依存させるような措置こそ、経済安全保障戦略として適切なのである。
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=========[引用開始](p160)=========
現代は、まさに力によって秩序を維持することが正義なのか、それともルールに基づく秩序が正義なのかが問われる時代になっている。
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=========[引用開始](p169)=========
中国のディスインフォメーションの目的は、日本の国際的な評判を落とすことで、中国の意思を押す付け、日本の政策を変更させることにある。また、海産物の輸入を停止することで日本に経済的な威圧を加え、中国が望む政策を実現しようというものだ。処理水問題でいえば、中国が処理水の安全性に疑念を示した狙いは中国への輸出に依存している日本の漁業者を追い込み、日本政府にプレッシャーをかけようというものだろう。
(中略)
本来の経済安全保障は、第3章でも述べたように「自国の弱み(脆弱性)がどこにあるのか」を把握することが重要だからである。
「自分たちは何をどの国に頼っているのか、どの国に何をどの程度、輸出しているのかを認識したうえで、有事が起きた時のリスクシナリオを頭の中に置いておくこと」。これが経済安全保障の要諦なのだ。
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=========[引用開始](p170-171)=========
国会は2024年5月に「重要経済安全保障情報保護法」、いわゆるセキュリティ・クリアランス法を成立させた。
セキュリティ・クリアランスとは、閣議決定された内容によれば、物質の供給網、つまりサプライチェーンの脆弱性に関する情報やサイバー攻撃に関する情報など、経済安全保障上、漏洩に問題があるものを「重要経済安保情報」に指定し、こうした情報にアクセスできる人間を限定する制度をいう。
(中略)
こうした措置が必要となるのも、現代は情報も含めあらゆるものが武器になり、リスクになり得る時代となったからこそであろう。
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=========[引用開始](p177)=========
そんな中で日本が取り得る選択肢は、リベラル国際秩序を共有すべき国々との連携が難しくとも、その価値と規範を守り、維持していく姿勢を常に見せ続けていくことであろう。ポピュリズムの嵐が永遠に続くとは考えにくく、「自国ファースト主義」の国々が主張し合う国際秩序は持続的なものにはなりにくい。
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=========[引用開始](p202)=========
現在、目の前で起きていることは「dynamic」(動的)に見えますが、実際は「static」(静的)です。静的といっても決して平和ではないけれど、何となく大崩れせず続いていくようなイメージを持っています。
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【出所】
資源と経済の世界地図 Kindle版. 鈴木 一人.2024年7月22日.PHP研究所
https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9VMLF5T
(最終閲覧日:2025年2月15日)