就職活動などする気のなかった俺が、アメリカ永住の為の手段として思い付いたのが米国CPAだった。

虎ノ門アカウンティングスクールに通って小島先生というなかなか個性的なアメリカ嗜好の先生に英文会計をおもしろおかしく学んだあと、自分でベッカーCPAリビューという現地の専門学校に直接電話をかけてカタコトの英語を使いながら申込み、渡米を決めたのが7月。俺が選んだ州は比較的日本人が受けやすいというカリフォルニアだった。(資格の管轄は州ごとにわかれている)当時の心境はテリー・デザリオの「Over the night succes」そのものだった。

 

学校が10月、試験が11月ということでその前の約2ヶ月間、俺は現地の雰囲気に慣れる意味でロサンゼルス市郊外のグレンデールというところでホームステイをすることにした。ロサンゼルス空港からまずエージェントのアークインターナショナルの送迎車で日本人街(リトルトーキョー)にある彼らのオフィスへ向かう。そこで書類のチェックをしたあと、少しダウンタウンを散歩した。それからステイ先へ行って契約を済ませる。費用は月$350で食事はなし。ここはもともとメキシコ領だったこともあって中南米系が多く、主人のアルトロはコスタリカ系とのことたが、親はやはりメキシコ人のようだ。奥さんはスペイン系でハキハキした感じ。ちょっと苦手なタイプだ。不動産屋で働いているらしい。となりの家には母型の親戚が住んでおり何でもルーズベルトの子孫だとか。まあ、どこまでホントだかはわからないが。岡田真澄を浅黒くしたようなアルトロは、最初の自己紹介の時、自分はレストランのオーナーをやっていると自慢気に言っていたが、期待してついて行ってみるとタコスのファーストフード店だった。タコスは日本のと比べてボリュームがあり特に野菜の量が段違いに多い。おまけに辛さもハンパではなく、1個たべるのに四苦八苦してしまった。まあこれでも飲めとこれまた1リットルはあろうかという特大のフルーツジュースをもらったおかげで何とか食べ終えたが、それでも辛さはしばらくとれなかった。

その日は車のフロントライトを壊されて、ボンネットが開かなくなったとのことで、車の修理工場にも同行した。今回の現地エージェントのスタッフなど、フロントガラスを2度割られ、1度などは盗まれたこともあるらしい。

さて、ホストハウスは高台の傾斜面に立つプール付きの家で玄関を入るとそこが最上階になっており食器乾燥機つきのキッチンとだだっぴろいリビングがある。階段を降りるとユニットバスと娘の部屋、それに俺の泊まる部屋があった。地下室っぽい感じが何か隠れ家みたいでいい。娘の部屋からはいつもブラックミュージックの重いリズムの音がズンズンと響いており、なんかかっこいいなあ、と思っていたが、当の本人とはあまり話をしなかった。というか、あまりそういう雰囲気にならなかった。そういえば、最上階の居間にシャーデーとかディオンヌ・ワーウィックのレコードが置いてあった。ディオンヌあたりはきっと母親が聴くんだろう。あとはメキシコっぽいやつばっかりでよくわからない。でも一度ドックオブベイが娘の部屋から聞こえてきたときはちょっとびっくりしたが。一番下は庭になっていて白い椅子がちょっとイイ感じだった。庭に通じる階段にもいろいろがらくたみたいなものが無造作にころがっており、その整理されてない自由な雰囲気は何か好きだった。

普段は皆外出がちで、食事時もほとんど帰ってこなかった。俺は時々、家からちょっと下った通り沿いのスーパーで買い出しをしに行ったりしていた。店内では上半身はだかのおやじがドラム缶のような腹をつきだして歩いていたり、また買い物を終えて店を出たときに人なつっこそうな男に「うまそうなもん、買ったな」などと声をかけられたり、そういったことのひとつひとつが新鮮だった。そこのスーパーのそばの食堂でひとりで飯を食ってた時など、ウェイトレスのおばさんが日本人とみるや「お箸使うんでしょ?」と話し掛けてきたりした。食費は自炊もまじえて大体月$400程度。水は飲めると言われていたがメキシコ人の基準なので、味噌汁や麦茶には水の自動販売機(1ガロン約20セント)を使った。

ダウンタウンまではバスで30分くらい。運チャンにもいろんなのがいた。途中でいきなりエンジンを止めてファーストフード店に入っていった奴。乗っていた乗客が「オー、シェット!アーユーシリアス?」とか何とか叫んで、降りていっちゃった。あと、たまに女性の運転手もいたっけ。

リトル東京は食べ物でも何でも大抵の日本のものは手に入る。俺はいつもヤオハンの中にある本屋で「週間ゴング」を立ち読みするのが日課だった。あとよく行ったのはエロ本ショップ。何といっても無修正ということと本場だけあってプランパーものが多いということで病み付きになってしまった。立ち読みにも時間制限があるらしくて店主のおっさんによく「いつまで読んでんだ!」って怒鳴られたものだ。何冊か持ち帰ろうとしたが、結局税関でバレて全てシュレッダーにかけられてしまった。

続く