赤撮り半次郎、お礼まいりの旅!!
亀吉が話そうとしたその時、奥の部屋から赤撮りの半次郎が旅支度の姿で現れた。
「半次郎さん、その格好は?」
「あぁ、片口のいわし親分に頼まれてな、これから旅に立つところだ」
「エぇッ!旅に?」
数か月ほど前の事だった。半次郎は片口のいわし親分が、南十字星を撮りにジャガタラ島へ行く事を聞いた。
その時半次郎は、南十字の頭、ガクルクスならこっちの皇座山でも撮れることを言ったのだが、
親分は南十字星の全体を視野に納めたかったらしい。
その後、帰ってきたいわし親分は南の島で思うことがあったらしく、寸暇のない忙しい日々を送っていた。
そんな折、半次郎がご機嫌伺いに片口村へ行った。
「親分、お久しゅうごぜぇます」
「おぅ、半次郎。おめぇも元気そうでなによりだ。向うは伊目次郎さんも亀吉も元気でやってなさるかい?」
「へぇ、おかげさんで、みんな元気でやっとります」
「ところで、うわさに聞いたところでは、亀吉にすげぇ友達ができたってぇじゃねぇか」
「あぁ、辺多楠次郎のことですね。ありゃぁすげぇ奴ですぜ、親分」
「聞くところによると、なんでも生まれつきローパス無しでHⅡ領域の赤も程ほどに撮れるとか、おまけに
高感度時のノイズが驚くほど少ないそうじゃねぇか」
「そうなんですよ親分。あっしらやくざ者は、星空撮るために道外しやしたが、
楠次郎は、はなから天体に向いてるようなやつでさぁ。どうも辺多(ペンタ)の血筋ってぇやつですかねぇ」
「そうなるとお前もそろそろ引退か?ハッハッハ(笑)」
「親分、それが冗談でもなさそうなんですよ。」
「えぇ?そりゃぁどういうことでぇ?」
「実は、伊目次郎さんとも話したんですがねぇ、あの皇座山をそろそろ若けぇ者に任しちゃどうだろうか、ってねぇ」
「ほう、そりゃぁいずれはそうなるだろうが、ちと早くねぇか」
「それが・・・。親分はアストロトレーサって知ってなさいますかねぇ?」
「あぁ、聞いたことはあるが、何でも『玄関開けたら2分で撮影』とか・・」
「それでさぁな親分。あの楠次郎が先日、頭痛が治まらなくて村の医者に診せたところ、なんと楠次郎の頭にゃ
そのアストロトレーサ実現のためのGPS受信機が出来てるってぇじゃねぇですか」
「そりゃどういうことでぇ?」
「医者の診立てでは頭を2~3回グルグル回してやれば治るってんで、そうしたら楠次郎の奴、
赤道儀にも載ってねぇのに星が点に写るってぇぬかしやがるんでさぁ。」
「半次郎。それが本当なら、すげぇ時代になったもんだなぁ」
そんな話のあと、いわし親分はおもむろに半次郎に頼みごとを言った。
「ところでなぁ、半次郎。そうなるとおめぇも少しはヒマになるんじゃねぇか?」
「へぇ、まだ亀吉達にゃぁ言ってねぇんですがね。そうなりゃぁ伊目次郎さんとボチボチやりまさぁ」
「そこで、おめぇさんに頼みがあるんだが」
「へぇ、なんでごぜぇます?」
「実はなぁ、わしがこの歳になるまで星空見続けてこれたのは色んな人に世話になってきたからなんだ。
そこで、頼みたぁ他でもねぇ、わしの代わりにその人たちにお礼のあいさつをしてきて貰れぇてぇんだ」
「そりゃぁ、親分の頼みですから否やは申しませんが、その方達の居場所は?」
「あぁ、それが結構とおくてなぁ、和泉、美濃、尾張、駿河、武蔵。場合によっちゃぁ蝦夷まで全国だ。」
「へぇ、そらまた、大変な旅程になりますぜ親分」
「それさぁな、こんな大事なこたぁそこいらの三したにゃぁ頼めやしねぇ」
「親分、万事承知いたしやした。年明けにゃぁ出立させていただきやす。」
半次郎は観音村へ帰り、そのことを伊目次郎に告げたところ、伊目次郎は大賛成だった。
そして、皇座山を若い者に任す手はずをつけ、そのことを亀吉達に伝えなければと思っていた時に、
亀吉が来たのである。
そんな事とは知らず、亀吉は楠次郎と二人しての皇座山での天体撮影を認めてもらえるかどうか
一大決心で来たのである。
全てを聞いた亀吉は嬉しさと同時に、半次郎とのしばしの別れを淋しく思うのであった。
「半次郎さん、あいさつ回りってどのぐらいかかるの?」
「そうさなぁ、半年になるか1年になるか。まぁ、行ってみねぇとわからねぇな。
なにせ、安芸より東へは行ったこたぁねぇからなぁ」
「えぇ、そんなにぃ?でも、必ず連絡おくれよ。こっちからも皇座山のこといっぱい知らせるから。」
「おぉ、そりゃぁ楽しみだなぁ。皇座山でのおめぇ達の活躍が目に浮かばぁなぁ(笑)」
こうして、半次郎は二人との別れを惜しむ間もなく旅立ったのであった。
まずに目指すは和泉。そこにはすごいお人がいるそうな。
いわし親分の話では、軽量小型にもかかわらず、解像力にかけてはそんじょそこいらの大口径
に勝るとも劣らないお方らしい。うわさではエレキテルを運ぶ電線を必ず視界に入れるそうな。
最近、撮るだけでは飽き足らず、紙に印刷して、それを部屋に飾ってニンマリしているそうな。
赤撮り半次郎。ますますもって、お会いするのが楽しみではある。
・・・・・・・・・・・・つづく
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