お父さんに言えてよかった | 日本という物語にサヨナラ

日本という物語にサヨナラ

職場や学級や家族など、さまざまな場で起こっている問題の原因と解決を考えます。どちらかというと若いお父さんお母さん、ご家族に読んでいただければと思います。

ともに働いている障害を持つ女性が、話したいことがあると。通常は定期の面談以外では話しあったりしないので、何かと思ったら父親のことで、と。それには心当たりがあった。以前彼女に、日本では家族の関係が子どもをのびのび育てることもあれば抑圧することもある、問題ある家庭では、だいたいは父親が悪いものだという話をしていた。彼女も同調して、私の親は私が小さい頃からすぐ怒り、激しく怒るのでとても怖かった、お父さんには相談などできない、と言っていた。その父親との関係の話だと想像できた。

女性は適応障害と診断されているが、診断名は本人の抱える困難とほぼ関係がない。大学で教官に厳しく指導されてついていけなかったことや、周囲の目に敏感で対人関係がうまく取れなかった過去がある。対人関係の基礎は家庭環境から生まれる。怖くて関わりに問題あった父親との関係が、同じく権威ある存在としての学校の先生との関係にも投影されてうまくいかず、挫折にも影響したことは可能性としては十分に想像できた。

今回の話のきっかけは、ここでの働きの賃金が引き下がる事になったことだ。事情によりやむを得ず決まった。女性は障害年金とここでの働きから得る収入で自立を果たしていたが、収入が減ることになるのでショックを受けた。後日には、経済的にそこまで大きな打撃にはならないと、冷静になれたのだが、症状が一時的に大きく出てしまい、希死念慮にとらわれた。それで母親に電話で自殺をほのめかして一方的に切ったらしい。後で父親が母親からそれを聞き、話がしたいと知らせてきた。それで翌日に会って話した。父親は、なぜ母親に困らせる話をするのか、と聞いた。そこでようやく女性が、今まで生まれてこのかた怖くて父親に相談などできなかったことを打ち明けた。それまで女性は、もう死ぬまでずっと、父親には何も言わないのだろうと考えていた。初めて父親に怖いと言えた。まともに向き合った話ができたのだ。なぜお父さんはあんなに怖かったの、と聞くと父親は、しつけだ、と言ったらしい。このくだりを聞いた時に私は思わず吹き出してしまった。言い訳にしか聞こえなかった。そもそもしつけなんて子育てにはいらないと私は考えている。父親は、子供はしつけなければならないとまじめに考えていたかもしれないが、生育に悪影響を与えるようなしつけは不必要だったろう。

父親は一方的に娘の話を聞かされる母親を心配して聞いてきたのだが、彼女に言わせると父親と母親の間にも多少の溝を感じるらしい。家事はもちろん、父親と娘とのやりとりにも母親が間に入った。母親ががんばってきたと言えるかもしれないが、それはそれで母親の側の問題とも見れる。そんな家族の関係が、これから多少なりとも変容していくかもしれない。今まで言えなかったことが言えたのだ。

言えてよかったね、と彼女に返した。