映画【THE GRANDMASTER (グランド・マスター)】を観ました
自分はカンフー映画好きで、中国武術好きなので、外せない作品でしたね
でも映画は、カンフー映画という趣ではなく、武術家としての生き様を歴史ドキュメンタリータッチで描いた作品…と言えるでしょう
カンフー映画として観るのであれば、その見どころは…実在の中国武術家をモデルにしたようなキャラクターが複数描かれていることでしょう
例えば、『八卦掌』の宮宝森は名前からして“宮宝田”がモデルでしょうし、『八極拳』の一線天(カミソリ)の経歴は“劉雲樵”がモデルでしょう
映画では本来の『八卦掌』は完全に伝わらずに途絶えたような結末でしたが、実際は甥の“宮宝斎”によって台湾を中心に伝承されたようです。
さらに、その系統は『八卦“拳”』と呼ばれ、区別されています。
また、宮宝森の功績として「『八卦掌』と『形意拳』を統合した」と語られていましたが、同時代のその功績なら“宮宝田”よりも『孫式太極拳』の“孫禄堂”のイメージですけどね
とにかく色々な人物を混ぜているようなキャラクターなんでしょうね。
でっ、『八極拳』の一線天(カミソリ)は、“劉雲樵”だけでなく“李健吾”の人物像も加わっているような
どちらも『李氏八極拳』の“李書文”の弟子であり、“劉雲樵”が国民党の特殊工作員、“李健吾”が共産党の要人警護隊武術教官という経歴を持ちます。
メインのモデルは、“劉雲樵”なんでしょうが、“劉雲樵”は台湾に亡命して武術界を築き、台湾総統府侍衛隊の武術教官となりましたが、映画の一線天(カミソリ)は香港に移住して弟子を作ったことに
さらに、漫画好きなら【拳児】に登場する黄河一号こと“劉月侠”のモデルが“劉雲樵”…と説明するとわかりやすいでしょう
ちなみに、一線天(カミソリ)演じたチャン・シンは、吉林省の長春で行われた『八極拳』の全国大会で優勝したそうですから驚きです
その大会は中国本土ですが、『八極拳』そのものは台湾系のものと天津系のものを両方学んでいたようです
大戦中、天字一号というコードネームの工作員として活躍した台湾武壇八極門の宗師…が“劉雲樵”大師です。
チャン・シンに三年間『八極拳』を指導したのは、武壇門下の陳國欽老師
しかしちょっと調べてみると、『八極拳』大会の2日前に長春で「吉林省『八極拳』研究会」が設立されたばかりだったようで、なんだか話題作りになっていたような気も
『八極拳』は、中国本土では比較的マイナーな門派みたいですが、【THE GRANDMASTER (グランド・マスター)】でも、特に他流派と交流らしいものをしてないように描かれていました。
国軍と結びついた、軍事的な側面を強調したかったのかもしれませんね。
一線天(カミソリ)が宮宝森の娘(宮若梅)とすれ違うのは、“劉雲樵”が“宮宝田”と一時的に交流していた影響かもしれませんね
映画に描かれていなかっただけで、一線天(カミソリ)も宮宝森から『八卦掌』を学んでいたのかもしれません。
あと個人的に満足したのは、この時代の武術家はアヘンが好き…という要素をちゃんと盛り込んでいたこと。
中にはアヘンが原因で命を落としたような人物も登場していましたが、アヘン好きでなおかつ武術の達人でいられるという当時の状況はなかなかに不思議です。