20日は休み取った。
でもまだ映画館のスケジュールは出ていない。行きやすい時間であってくれ。
今の状態で一番困るのは、スクランブルがかかる事だ。
以前に比べると格段に減ったとはいえ、ない訳ではない。フリーダムがいないというだけで、恐らく相手は格段に勢いづく。
これまでの実績も含めて、フリーダムのネームバリューと存在感は群を抜いている。
総裁としての立場で、ラクスはそこも考えてしまう。キラの心配だけしていられない自分が少し嫌だった。
”ああ、でも…本当に可愛いですわ”
クリクリと大きな菫色の、何の憂いもない、純粋な瞳がラクスを見つめている。
”何の苦しみも悲しみもまだ知らない…もしかしたらこのままの方がいいのかもしれませんけど”
だがそれはラクスの勝手な言い分だ。
なんだかんだ理由を並べ立ててみたところで、キラの力はいまだこの世界には切実に必要なのだ。そして恐らくキラもそれを望まない。
ずっとずっと。
戦うのは嫌だけど、戦わなくて大切なものを守れないのはもっと嫌、というスタンスで戦ってきた人だから。
”わたくしのわがままで、キラを世界から切り離すことなど出来ない”
キラが確実に元に戻るとしても、こんなキラを見てしまうと、これからあんな地獄を知らずに生きていける可能性があるのなら、とも思ってしまう。
「おねーちゃん?」
黙り込んでしまったラクスを、キラが不思議そうに呼ぶ。
『わたくしはラクス・ヤマトと言いますの。おねーちゃんではなく、ラクスと呼んで頂けると嬉しいですわ』
「…ヤマト?」
小首を傾げるキラの仕草は、それはそれは可愛らしい。それを見てしまったメンバーも悶絶した。
普段のキラも時々やる仕草だが、この姿でやられると破壊力が違う。
”ああぁ…やっぱり可愛い私の弟”
”キラさん!反則です”
”子どもって皆こんなに可愛いの!?ううん、これ、絶対隊長だからよね!?”
”ヤバい、これ、誘拐待ったなしの可愛さよ”
”これがあのアスラン・ザラが骨抜きにされた可愛さ”
”やはり元に戻る前に、一度は抱っこを…!”
そんなメンバーの内心など解る訳もないキラは、ラクスに視線を向けたままだ。
画面の向こう側にいるラクスは映っているメンバーの悶えように少々嫌な顔をした。勿論、見た目には殆ど判別がつかない程度だが。
”皆様、キラは渡しませんわ”
キラが自分以外を選ぶなどありえないと思いつつも、決意を新たにする。
『キラとわたくし、半年前に結婚しましたのよ?』
「けっこん…」
『はい。スケジュールの都合上、まだ式は挙げておりませんが入籍はすましています』
「けっこんって、大好きな人同士がずっといっしょにいようねってやくそくする事だったっけ?」
『はい。こちらがキラが下さったものですわ』
ラクスは左手を画面に向けた。
薬指にキラリと光る指輪。
「僕、おねーちゃ…ラクスさんみたいなきれいな人とけっこんするの?」
何処となく戸惑った風なキラを不思議に思いつつ、ラクスは大きく頷いた。