あのシーンで私がモヤるのは、誰もキラの方の心情を考えてないからなのか。

多分、シンだけがキラのメンタルどん底なのをきちんと理解出来ないまでも察してはいたんだろう。

更にキラの「僕が間違っているからなのか」という絶望の叫びに結局アスランも答えてないこと。全部ラクスのことに問題をすり替えてるし。

まぁ、オルフェの罵倒を知ってたら、流石にもう少し違った反応だったとは思うけどさぁ。

…ラクスが本当に「俺が知ってるラクス」じゃなくなってたらどうすんだよ。

後、必要な事だと判断したとしても、白兵戦最強のアスランが素人のキラを凹り続けてるの、普通に危険だと思うんだが。

…前置き長い。

 

 

翌日、ラクスは少し心配そうな顔をしていた。

「大丈夫ですか、キラ?」

「うん。僕は別に」

問題はきっとアスランの方だと思う。

キラがアスランに対してあれ程突き放した、冷たい態度をとった事はない。

敵対していた時でさえ。

イージスを切り刻んだ時でも、言葉や思いが伝わらないもどかしさや憤りはあっても、突き放してはいなかった。そしてアスランもそれは解っていた筈だ。

突き放された、見限られたと思っていれば、脱走後AAを目指したり(メイリンの証言)しないだろう。

 

アスランの着任のあいさつは恙なく終わった。

たがキラの補佐という立場には、シンから抗議の声が上がった。

「何でですか!いきなり来て、補佐なんて!!」

「総裁からの任命だが」

淡々と言い返したアスランに、キラは気付かれない程度に溜息をついた。

”シンにはそういう言い方は良くないって、何で解らないんだろう?”

また、これがキラがアスランが来ることに対して難色を示した理由の一つだ。

確かに人手は相変わらず足りない。

優秀な人材は有り難い。

だがしかし。

不必要な軋轢を起こすのはいただけない。まして言葉の扱い一つでどうにでもなる事なら猶更だ。

何よりも、確かにアスランはミネルバではシンの上官だったし、今も階級は上だ。

それでもミレニアムではシンが先任なのだ。多少なりと気遣いとか立てるとかあってもいいのではないのか。

「ラクスが承認したとしても、現場権限で僕がそれを解任出来るよ」

「隊長!」

「キラ!」

前者は喜び、後者は抗議の声だ。

コノエは今のところ、黙って見守っている。

副長であるアーサーはそわそわしているが、艦長が何も動かないのでそれだけだ。

他のブリッジ・クルー及びルナマリアとヒルダ、アグネスは静観している。…ハインラインは我関せず、と言ったところか。

「それに補佐って、他の所は勉強不足で知らなくて申し訳ないけど、ミレニアムでは必須なポジションではないし、何よりしっかり書類があっての任命ではない。あくまでもそういう立場で動く人がいるってだけ」

「キラ…!」

「君が現場人事権のある僕に内密にしてたのって、こういう事をされない為でもあるんじゃないの?」

コンパス総指揮官としての顔で語るキラに、アスランがグッと詰まる。

「それに総裁が任命したと言ったけど、ラクスは困惑してたよ。君、何をどう言ったの?」

そこでキラはちらりとコノエを見た。

「私は総裁に『バランサー』を頼まれましたよ」

「----解りました。ハインライン大尉」

「なんでしょう、准将」

瞬時に振り返った彼に、アスランを除くこの場にいるクルー全員が苦笑を耐える。

”いや、あんた、どんだけ准将好きなんだよ!”

細かな言葉遣いは違えど、心情は皆こうだった。