いいシーンで収まっているし、私も別に否定はしないけど…やっぱり何かモヤるんですよ、あのキラをぶん殴るシーン。

あれ、取りようによってはキラのこれまでの努力を全否定してないか、と。

 

 

シンだって、アスランの能力の高さは否定しない。

正義を求めて、平和を求める、善性の人間だという事も解っている。

キラの言うように、ただ不器用なだけだと言うのも、今なら理解出来る。

なんというか必要な一言は言わないし、逆に余計な一言は多いし、こちらに対しての説明も抽象的で意味がよく解らない事が多い。

『出力が下手なんだよね』

キラはそう言っていた。

付き合いが長く、共に死線を潜り抜けてきた絆も強いものだろうから、キラはアスランの下手な出力の中の本当に言いたい事を察する事が出来るから、あの時だっていい具合に丸く収まったんだろうとは思う。

恐らくはラクスやカガリも、キラほどではなくてもそれが出来るに違いない。

だが、そんな人達の察する力に甘えているようにも見える。

『言葉にしないと伝わらない事もある』

あの時そう言っていたのに、当の本人はキラの自身への理解の高さに頼った言葉足らずのコミュニケーションが常態化しているように見えるのは、シンの二人への感情の違いによるひいき目ではない筈だ。

「アスハ代表の命令があったとして、キラさんに秘密にしてたのはあんた個人の判断って事は、キラさんの生活や勤務状況を抜き打ち検査に来たように思えたんじゃないですかね」

「そんなことは…」

「そんなつもりじゃなく、他の理由があるんなら、何で最初にそれをキラさんに言わないんですか、あんたは」

キラがザフトに来た当初、一つ一つは取るに足りないような…それでも確実に相手のメンタルを削るような地味な嫌がらせが引きも切らなかった。

シンやルナマリアが把握している以外にもイザークやディアッカが別に把握しているものもあり、曲がった事、道理が通らない事が大嫌いなイザークが激怒した事があった。

証拠を取りそろえ、特にやり口が酷く、回数が多かった者が言い方は悪いが、見せしめも込みで処分を受けた事件があった。

だが、当のキラはそれらを軽く受け流し、本人の中に何かの基準があるのか、受け入れて謝罪をする事もなくもなかった。

そう言った態度の柔らかさ、誠実さ、謙虚さに、徐々に回数は減っていった。

要するに、キラが今回のように相手を突き放すような態度を取った事はシンが知る限りなかったのだ。

とはいえ、キラ本人が言うのならいざ知らず、そんなザフトでのいざこざをアスランに説明する気はない。

今回の事は、キラの数少ない地雷をアスランが踏んだのか、あるいは相手がアスランだからこその一種の甘えなのか。そのどちらかだろう。

キラの怒りの沸点は常人より遥かに高い。

後者ならまだいいが、前者ならかなりややこしい事になる可能性がある。

”ていうか、アスランって、もれなく所属組織の空気悪くしてないか?”

ミネルバ時代もそうだったが、イザーク達からも聞いた話でも…当時は彼らも新兵で自分達にも問題があったが…という前置きありで説明してもらったが、それはそれで結構酷かった、と思う。