という事で、本日2回目。

支部でもこれでもかと二人の誕生日お祝い作品が上がっております。

ちょっと毛色の違うものを。

 

 

「ハッピーバースディ!!」

扉を開けたとたんにかけられた複数の声、クラッカーの音と、頭からかかる紙テープ。

キラは何度も瞬きした。

 

約一か月前、ムウとマリューの連名で送られてきた「この日、スケジュールは空いてるだろうか?」というメール。

それはキラ謹製のセキュリティを施された、プライベート回線。キラと親しい者だけにそれぞれ送られたそれは、ある意味、友情や信頼の証でもあった。

用件や理由はなく、ただそれだけだった。

けれど、あの二人が自分に対して意味のない事や下手なからかいなどする事はない。

まして害をなすような事など。

だからキラはその場で自分のスケジュールを確認し、ラクスとコノエへ連絡を入れてオフ日を一日ずらしてもらった。

前倒しにするなら、いくらかの調整が必要だったが、遅らせる分にはそこまでの支障は出ない。

一ヶ月も先のスケジュールが決まってるなんて、昔だったら考えられなかったな、と思ったりした。

そうしてOKの返事をしたら、詳しい場所と時間が送られてきた。

「…ホテル?」

まさか二人の結婚式でもあるまいに。

それだったら、自分だけなんて事がある筈もない。

 

そうして何事だろうと疑問を感じつつやってきたら、これである。

「え…っと。祝ってくれてるところ申し訳ないんですが…僕の誕生日って一ヶ月は先ですよ?」

「ンな事は解ってるよ」

言ったのは主催者だろうムウだ。

「けどさぁ。その日ってカガリ嬢ちゃんの公式パーティがあるだろ?その前後と言っても、お前さんも忙しいだろうし?それこそアスランだって、ラクス姫さんだって、お前さんを離したがらないだろうし?」

「…それは、まぁ。」

そう言いつつ、参加者を見渡して…ある事に気づく。

「最初のAAクルー…」

「そう言う事よ。ずっとあなたに守られてきた、つまり、誰よりあなたに感謝してるメンバーよ」

マリューが穏やかに微笑む。

勿論、全員ではない。

戦死してしまった者、連絡がつかなくなってしまった者、気まずさが勝って辞退した者、都合がつかなかった者…この場にいるのは人数的に言えば、寧ろ少ないと言っていいだろう。

それでもブリッジ・クルーを筆頭にマードックなどの整備クルーもいる。

中でもキラの目を引いたのは、サイ、ミリアリアと共にいるカズイだった。

思わず瞠目したキラに、カズイはきまり悪そうな顔で小さく笑って手を振った。

「誕生日、おめでとう、キラ。お前と出会えて嬉しいよ」

「おめでとう、キラ君。あなたがいてくれたから、私達は今、生きているの」

「おめでとうな。今日はヤマト准将じゃなくて、あの頃みたいに坊主って呼ばせてもらうぜ」

「おめでとう、そして有難う。君と共に戦って来られた事は俺の誇りだ」

ムウやマリュー、マードックにノイマンと次々に声をかけられる。

そうして一通り大人組が声をかけ終わると、サイ達がやってきた。

「誕生日、おめでとう、キラ。しっかし、相変わらず細いな。それで総裁をお姫様抱っこできるのか?」

「え?サイ?」

「結婚式でお姫様抱っこって女の子の憧れらしいぞ」

「もう、サイったら。おめでとう、キラ。それはそれとして健康っていう意味でももうちょっと太りなさいよ。私より細くない?」

ミリアリアの視線がキラの腰に向く。

「…流石にそれはない、と思うけど」

これでも…少なくともファウンデーション事変以前よりはましになったのだが、という事は、あの頃はどれだけ酷かったんだろう?

「久しぶり。そしておめでとう、キラ。何時も俺達みたいな一般人の為に命懸けで戦ってくれて、感謝してる」

「カズイ…うん…っ」

今では軍も政治も関係ないところにいるだろうカズイにそう言われて、キラは目の奥が熱くなった。

今日、ここに集まった人達にそう言われて、やっと、あの頃、独りで泣いていた自分が報われたような気がした。

いや、自分が気付かなかっただけで、きっと本当は、もっと前から。

なんとなくキラが泣きそうな表情をしていたのだろう、ミリアリアがひときわ明るく声を出す。

「さ、キラ。今日は沢山食べてね。代表ーーーカガリさんからの伝言よ。次に会う時は私を腕相撲で負かしてみろって」

「え?それ食べるだけでどうにかなるもんじゃない…」

「食べなきゃ始まらないだろ」

中央に大きなケーキが乗っているテーブルに引っ張られる。

 

そうしてパーティが終わった後、キラはムウに呼び出された。

「解ったか?キラ」

「ムウさん?」

「お前の為に、これだけの人間が集まるんだ。お前を愛してるのはアスランたちだけじゃない。覚えておけ。お前は大勢の人間に愛されて必要とされて、生きていることを望まれてるんだ」

「---はい。あ、りがとう…ございます」

自分の出生の事情を知るムウに頭を撫でながら言われて、今度こそキラの瞳から涙が零れ落ちた。

これを言う為に、ムウとマリューは自分達だって忙しいのに、このパーティーを企画してあらゆるセッティングをしてくれたのか。

ああ、本当に。

「運命」とやらに恵まれなかった自分は、「運命」を否定した自分は、育ての両親を筆頭に「人間」に恵まれた。