隣の公園の桜が満開になった。

 

 

 

その日、キラとラクスの邸宅に一人の客がやってきた。

「久しぶり、キラ、ラクス」

「久しぶり、リミ」

「お久しぶりですわ」

そうして三人でリビングへ向かう。

オーブ特産の果物をお土産に差し出した後、リミはキラに向かって頭を下げた。

「ごめんね、キラ」

「え?何?何が?」

「あんな事言っといて、結局キラの為に何も出来なかったから」

リミ本人以外、誰も知らない「転生者」という事実。記憶を取り戻してから、キラの力になるために頑張るのだと決めた彼女にとっては痛恨の事実だが、当然それをキラ達は知る由もない。

「でもターミナルにいたんでしょ?だったら下手に外部と連絡取れなくても仕方ないし、直接ではなくても僕たちの力になってくれてたって事じゃないの?」

今回のアスランやメイリンのように。

「それでもやっぱりね。フリーダムがまた戦場に出てきた時も、ラクスがこっちに来た時も、フリーダムが撃墜されたって聞いた時も…物凄く驚いた。私、ここで何やってんだろって思ったわ」

心底から申し訳なさそうな彼女にキラとラクスは顔を見合わせた。

「ですが、リミ。わたくしの話を聞いてくれただけでも、わたくしには救いでしたわ」

自分よりキラと付き合いが長い…アスランほど近くはなくてもキラの幼い頃を知っているリミと話す事は、ラクスにとっても安らぎだったのは本当だ。

「でも私、それで嫌なお願いもしたわ」

「リミがターミナルにいる事を、キラに内緒にした事ですか?」

「ラクスはキラに隠し事なんてしたくないだろうって事は解ってたのに、目的を果たすまでは意地になってた」

「それって、医師免許のこと?」

キラの言葉にリミは頷いた。

「勿論、軍の訓練でも応急処置的な事は教わるけど、ちゃんと専門で学びたかったの」

それだって、元をただせばキラがストライクで大気圏突入した時に、医者がキラがコーディネイターだからと言って処置を投げたのが発端だ。

これも一応リミは覚えてはいたが、自分という他のコーディネイターがいる前ですらあの態度だったのにブチ切れたからだ。

「一応座学の方はパスしたんだけど、その後のインターンシップの方が大変だったかな」

キラが苦笑する。

工学系のカレッジで、キラと同じゼミにいたのだから、医学は全くの畑違いの筈なのに。

つまりターミナルの仕事をこなしながら、独学で勉強して試験にパスしたというのだ。

それでも、キラの力になれなかったと謝罪する。

ああ、変わってないなとほっこりする。

いつもリミはキラの味方だった。

「ストライクのパイロット」というキラの扱いに本気で怒って、なんなら「コーディネイターで出来るからってやらせるんだったら、私が乗ってもいいでしょ!」とムウに嚙みついた事すらあった。

勿論それはキラ自身が止めたが、実際その後アストレイに乗ってヤキンを生き残ったのだから、やって出来ない事はなかったのだろうけれど。

「まぁ、でも」

「リミ?」

「うん、本当に上手くいったんだね、良かった」

穏やかにそう言われて、二人はまた顔を見合わせた。

そう言えば、何故か彼女は最初から自分たちをくっつけようくっつけようとしていたような気がする。

戦後、重度の鬱とPTSDになり、廃人寸前になってしまったキラと、キラほどではなくても疲れてしまったラクス。

キラと共にいる事自体がラクスにとっては癒しでもあった。

そんな状態では考える余裕もなかったけれど。

お互いに態度だけでなく、きちんと言葉で伝えあえて、今までのすれ違いが解消されて、二人の関係に余裕が出て来て初めてそれが不思議に思えてきた。