蒸し暑い。流石にもう気温が下がる事はないかな。

 

 

「もう大丈夫みたいね」

明日には宇宙に上がると言う日の夜、キラとの話を終えて戻ってきたアスランを珍しい人物が迎えた。

「俺に何か」

自分の部屋の前で待っていたという事は他には聞かれたくない話か。

「ええ」

ミリアリアはニッコリと綺麗な笑みを浮かべると同時に、右手を高く振り上げた。次の瞬間、頬を叩く高い音が響いた。

「…あなたが避けなかったって事は、叩かれる理由は解ってるって思っていいのかしら」

ナチュラルの、軍人としての訓練も受けていない女の平手をアスランが避けられない筈がない。

「あの時の事だろう」

「落ち着いた今なら解る?よくもあんな事を言ってくれたものよね」

「…済まない。だけどあの時君は」

自分達を引き合わせた後は、一言も口を挟まなかった。

「あの時のあなたが、私の言葉を聞いたかしら。キラやカガリの言葉さえ聞かなかったのに」

「それは」

カガリが老獪な首長会のメンバーにどれだけ苦労していたか、お飾りである事を苦しんでいたか、傍にいた自分が一番よく知っていたのに。あの時のカガリに首長会をどうにか出来る筈もなかったのに。

それにあの時のオーブの状況であれば、帰ってしまえばカガリは再びセイラン家に軟禁され、アークエンジェルクルーは逮捕、キラやラクス、バルトフェルドと言ったコーディネイターは良くて国外追放、悪ければ…。

あの時の自分は冷静なつもりでいて、全く冷静でなかった。

「どうせキラもカガリもあなたに対して何も言わずに、普通に受け入れたんでしょ?あなた、大怪我してたし、寧ろ気遣う位してたんじゃない?」

「……」

実際その通りだ。

あれだけ暴言を吐いた自分に、二人は何も言わなかった。それどころか自分の方が愚痴さえ言ったのだ。

改めて突き付けられると、その情けなさと身勝手さに穴があったら入りたい気分になってしまう。

「そもそもあなたがザフトに戻ってた事、カガリさえ知らなかったってどう言う事?カガリに相談したり許可を取ったりどころか、連絡すらしなかったの?」

ミリアリアも前大戦後、主要メンバーがどうしていたか位は把握している。特にキラと関わりが深かった人物に対しては。

「それと、これは別に貴方一人の責任ではないけど…自分がキラを戦争に引きずり込んだ張本人の一人だって事、忘れないで!」

確かにこれは、キラ本人は絶対に言わない事だ。

キラの手が血まみれだなんて…たとえそれが事実でも自分が叩きつけていい言葉ではなかった。戦後のキラがどれだけボロボロだったかも知っていたのに。

「――――もう一つ。あなた、自分が元からのアークエンジェルクルー以外にどう思われてるか、全く気を払ってないみたいだから言っておくけど、あなたの言動で最悪キラやカガリにも不信の目が行きかねないって事、自覚しておいて」

「――――ああ」

そうだ、身近にいるキラ達が何も言わないから全く考えていなかった。オーブの軍人から見たら、自分はザフトの脱走兵である事に違いはない。

それにもしかしたら、過去自分がカガリのボディガードをしていた事を知っている者もいるかもしれない。そんな人から見たら、自分はオーブ側からも裏切り者扱いされても文句は言えない。

「一度キラ達にきちんと謝っておいた方がいいわよ」

それだけ言うと、ミリアリアは颯爽と去って行った。

「…参った」

そう言えば、自分は戦争だったとはいえ、彼女の恋人を撃墜しているのだ。それを思えば、あれはミリアリア個人にとっても許しがたい言葉だっただろう。

そして今まで一度たりとも彼女はそれを自分にぶつけた事はない。

強いな、と素直に思う。

彼女もまた、キラと同じ巻き込まれただけの民間人だったのに。

戦争が終わったら、色々けじめをつけなければならないだろう。

 

 

 

色々焼き直して、こんな感じ。

当時はアスランはまだベッドの上だった。