ちょっと前後して、退院した6月の話です。

 

 

夜、気が狂いそうになった。

 

味。

 

味わいたい。

 

味を感じたい。

 

 

最後に口から食事をしてから、半年を超えていた。

 

 

最期の食事は、パンだった。

 

2018年1月9日の入院した時に持ち込んでいたパン。

 

 

口内には、再発した癌が、

生検したら、その後からは、痛むようになり、

癌も見えるぐらいまで、大きくなった。

 

食事をするのも、痛い。

この頃は、痛くて痛くて、早く手術が受けたいと思っていた。

 

 

柔らかいパンを、数口食べたのが最後。

 

 

人生最後の食事は、パン数口となる。

 

 

それから半年。

 

 

事前に、主治医から

 

「手術すれば、飲み込みに障害が残る。」

 

と言われていた。

 

 

自分としては、障害が残っても、飲み込めわするだろうと考えていた。

障害が残ると言われて、全く食べられなくなると考える人は少ないとも思う。

 

 

手術後は、食事がどうとか考える事すら出来ないほどだった。

 

やがて、食事リハビリで、僅かなゼリーが飲み込めず。

 

余命宣告を受けて、食事リハビリは自然消滅した。

 

 

人生で、初めてとなる。

食事をしないという期間が半年を超えた。

 

そんな日だった。

 

 

味わいたい。

味が欲しい。

 

いても経ってもいられなくなり、

 

家に有ったが、味塩コショウ。

 

 

塩味を味わいたい。

 

 

手のひらに、塩コショウを振った。

 

 

癌手術で、舌の一部を取っているので、それを舐める事は出来ない。

 

 

指先に、塩コショウを付けて、口内に突っ込む。

 

口も、1センチ程度しか開けない。

 

指一本を、突っ込むという表現がこれほど正しい事もないだろう。

 

 

しかし、

味は、塩味は、余り感られなかった・・・

 

 

その後は、何か憑き物でも取れたように、落ち着いた。

 

 

人間の三大欲求。

 

 

食欲。

 

 

その欲求が、半年という期間で、爆発した日だった。

 

 

狂ったように、指を突っ込んだ日。