手術から、9日目。
この日も、
術後感染症(菌血症)の問題となる菌は、見つかっていなかった。
手術箇所が膿み、1月15日から始まった、毎日の処置である、
膿みだしの処置が、重症個室にて今日も行われていた。
整形外科の先生が、今日も、膿を出す為に、
物凄い力で、傷口をぐっと押す。
体が動いてしまうぐらいの力で膿を押し出す。
周りには、アシスタントのように、数名の先生も居た。
ぐっと押して、膿を出している。
何度も、何度も押す。
押しているのは、首の傷。
中咽頭には、再発した癌。
そして、首の右側に、新たに転移した癌があった、
両側頸部リンパ郭清術を受けた、その手術後を押している。
傷口を触られる恐怖はあるが、
この日まで、一度も鏡を見た事もなく、自分の傷や、見た目を見た事が無かった。
なので、どんな傷になっているかも分かっていなかった。
傷を触れてはいるが、
大きく切り開いている為に、麻痺もあったのだろう。
その為、傷を触れている痛みは無かった。
単純に、押された痛み自体はあったが。
そして、場面は一瞬で変わる。
急に、さっきまで居なかった、母親がいた。
意味が全く分からなかった。
そして、大きな声で名前を叫んでいる。
先生達も、お互いに指示らしき事を言い合っている。
何が、起こっているのか、理解ができない。
一人の先生が、力を込めて首を抑えている。
そして、恐ろしい説明を受けた。
「大量出血の為、今から緊急手術を行います。」
場面が一瞬で変わった理由は、
大量出血で、意識を失ったからだった。