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もう、引き返せない。
兄が少し前を歩き、そのすぐ後ろを同じ間隔を保ちなが販売店に近づく。

集まって話し込んでいる配達員さん達の顔がより一層、リアルに見えてくる。と、同時に更に緊張が高まる。

僕は出来るだけ平静を装って挨拶しようと言い聞かせてた。しかし、顔は強張っていたと記憶する。

僕の角度から兄の表情は確認できなかったが背中から緊張が伝わってきた。同じく表情は強張っていたと思う。

一歩一歩、新しい世界に近づく。大人になった今なら大袈裟な表現だが、その当時の僕には違う世界の扉を開けるという一大事だった。足は前に進んでいるが心は後ずさりしているのが分かった。

しかし、現実は非常なもので気がつくと配達員さん達の前に僕達は到着してしまっていた。

兄『こんにちは…』
僕『こ、こんにちは…』

配達員さん達は一瞬、こいつら誰だ?と、いった感じで僕達を見て

『あ~こんにちは。』と、返してくれた。
他に何か言われるかと思ったが、何者か分からない僕達に興味を示すことも無く、また雑談に戻った。僕としては凄く有難かった。

そして、第一関門を何となく切り抜け、販売店の中に入る。次は店主のおじさんを目指す。ガラガラッ
アルミの建て付けの悪い引き戸を開けて兄が声を掛けた。

『こんにちは。今日から新聞配達をさせていただく⚫️⚫️です。……こんにちはー。』

少しの間を空けて

『お~~来たか。こっちゃ入り。』

販売店といってもごく普通の家の前を少し増築する形で作られた建物だったので、居住スペースと新聞の仕分け作業をする部屋は繋がっている。

奥に進むとおじさんとおばさんが居た。
どうやら、おじさんの奥さんらしい。
小柄でぽっちゃりとしていて、垂れ目の凄く人の良さそうなおばさんだった。
それだけで安心したのを凄く覚えている。
前日からの色んな想像は、決して楽観的なものではなく最悪の状況ばかりを考えていた僕には、その親しみの持てるおばさんのキャラクターだけでもかなりの救いになった。

おばさんが
『あんたらか~、小学生の兄弟は?小さいのに偉いな~。お父さんとお母さんにはちゃんと新聞配達するって言うてあるか?家は何処や?』

『木材スーパーを入ってちょっと行ったところです。』

『あ~⚫️⚫️さんとこの近所やな。』

さすが、新聞販売店のおばさん。少し場所を説明しただけで家の場所を的確に当てられてしまった。その当時は何も思わなかったが、アルバイトの申し込みの際に履歴書の事なんて一言も言われなかった。そう思うと古き良き時代だったんだなぁと、今更ながらほのぼのとした気持ちなる。

そして、おじさんが
『嫁さんがお前らの配る所を教えてくれるから、早よ覚えんねんぞ。今日から2日間、一緒に配ってくれるさかい3日目からは2人で配りや。』

『分かりました!』

その頃にはだいぶ緊張もほぐれ、初めて仕事をする不安とワクワク感がいい感じに心を支配していました。子供ながらにまだ仕事をしていないにも拘わらず、一つの達成感を感じたのを憶えています。

そして、おじさんがおばさんに
『皆に紹介しといたれ。』
と、ぶっきら棒に言いました。

僕はどうも外で雑談している人達に苦手意識を感じていました。

もう一度、きっちり挨拶せなあかんな…
と、思いながらおばさんの後に兄と一緒に続きました。

おばさんが
『あ~あんたら、今日からウチで働いて貰う⚫️⚫️くん兄弟や。面倒みたってや。』

イカツい中年男性
『なんや、お前らアルバイトで来たんか。まだ子供やろ?何歳や?』

兄『僕が4月から中1で弟が小学5年になります。』

イカツい中年
『また何で小学生がアルバイトすんねん。貧乏なんか?』

どんだけストレートやねん、このおっさん。少し緊張の解けていた僕は心の中で突っ込んだ。

兄『自転車を買う為に来ました。』

イカツい中年
『今時、珍しいやんけ。俺はそんなん好きやぞ。すぐにケツ割ったらあかんぞ。頑張れや!』

口は悪いがいい人かな、、、と少し見直した。何よりこのイカツいおじさんがメチャクチャな人で無くて良かったと胸を撫で下ろした。

そうこうしていると、販売店の前に小さなトラックが到着。

販売店の前に横付けにして運転手さんが降りてきた。すかさず、荷台に飛び乗り束になった新聞を慣れた手付きで放り投げる。
それを配達員さん達が中に運び込む。そして『おーきにー!』とだけで言い残しトラックは走り去った。気が付けば販売店の中で皆が自分の配達エリアに必要な新聞を数え分厚い布で丸めてカブに積み込んで行く。

どうして良いのか分からず兄と2人で見ていると、おばさんが
『あんたらに配って貰うのは52軒やから、そこの新聞を53枚数えてみ。1枚、多めに持って行き。もし、間違えたら足らんようになるからな。せやけど1枚以上間違えてるようじゃあかんで。』

2人
『分かりました。』

慣れない手付きで53枚の新聞を数えて布に巻く。すでに手はインクで少し黒くなっていた。

おばさん
『ほんなら、下に自転車用意しといたったから乗ってついておいで。おばちゃんはバイクで行くからしっかり付いておいでや。あんたら小さいから近所を配らしたるわな。ちょっと坂道多いけど(笑)』

2人
『分かりました。頑張りますっ‼︎』

そして、いよいよ僕達の新聞少年としての生活が幕を開けました。

つづく