『❌❌の散髪屋さん知ってるやろ?あそこの前に先に行って待ってるからおいでや!』
そう言い残し、先にバイクで行ってしまった。
兄と僕はおばさんを待たせてはいけないと必死で自転車のペダルを漕ぐ。
その頃には不安やためらいはスッカリ消えていた。消えていたと言うよりそっちに思考を巡らせる余裕が無くなっていた。
運動会で徒競走のスタートラインでは緊張しているが走り出したら無我夢中でゴールを目指している。そんな感じだった。
そして、おばさんとの待ち合わせ場所に到着し記念すべき一軒目のポストに新聞を投入する。そして、ポストに入れる際の注意点がおばさんから説明された。
『ええか、ポストには色んな形があるやろ?せやからな、それぞれに合った折り方で入れるんやで。入り口の狭いやつは特に気をつけや。入れる時に破れるからな。
それと、いつ雨が降ってくるか分からんよって必ずポストからはみ出してたらあかん。それからな、ポストが潰れてて雨の入ってくる家があるからそれも覚えて必ずビニール袋に入れてから配るんやで。』
小学生の僕は、なるほど~奥が深いな。新聞1枚配るだけでもそれぞれの状況に合わせて考えなあかんねんなぁと関心した。
おばさんは手際良く、配達先の家のポストに新聞を投げ入れて行く。
僕達は新聞を入れた家の表札を見て名前をメモしていく。メモしながら家の特徴を頭に焼きつけていく。おばさんが一緒に来てくれるのは今日と明日の2日だけ。それ以降は兄と2人になる。覚える以外、方法は無いのだ。
おばさんの予告通り坂道の連続。住宅街の全ての道を効率良く周りながら配達していく。
その道順も覚えるのだが、そこにも感心させられた。一筆書きのようにほぼ同じ道を通らない。自宅の近くとはいえ全ての道を隈なく通るので今まで通ったことの無い道や、知らない家、デカくて凶暴そうな犬、見たこと無い高級車、可愛い女の子など発見の連続だった。
子供にとっては近所でも知らない事は沢山あってそれを発見した時は、少し広い世界に飛び出した様な気分になった。
気づけば、1日目の配達は終わっていた。一応、配達先の名前は全てメモした。
明日はこのメモを見ながらの復習だ。
おばさんが
『これで終わりや!今日は教えながら配ったから2時間位掛かったけど慣れたら1時間半位で配れるわ。とにかくやな、配達先の家とポストの癖を覚えや。ホンマ、ポストには癖があんねん。特に雨で濡れたら最悪やで~。取り替えてって言わはる人もおるからな。気ぃーつけや。』
僕の頭にはポストには癖がある、というフレーズだけだ強烈にやきついた。
大人になった今でもおばさんの
『ポストには癖があんねん。気ぃーつけや。』の言葉が鮮明に記憶されている(笑)
その後、おばさんと別れた僕達は再度、復習の為に同じ道を同じ道順で配達先の家を確認しながら周った。
メモした家を順番に確認しながら…
そして明日には完璧にしなくてはと気を引き締め、新聞配達の初日は無事に幕を閉じました。
つづく