いつものように病院へ行くため、通いなれたメトロに乗っていたときだった。

私の隣には、小柄で歳のころは80歳ぐらいのマダムが座っていた。

誰かに媚びる風でもない、最近面白いことなんてなかったわ、なんて表情を真っ直ぐに空を見つめる訴えかける眼差しが印象的な、小柄ながらも芯の強い女性だった。

特に目立ったオーラを持っているわけではなかったのだけど、私は彼女をチラチラ盗みしながら終点までの乗車を楽しんでいた。

パリの中心から電車が離れたせいか人もまばらになり、パリのメトロでは珍しいのだが彼女が居眠りをし出した。

彼女の向えには、彼女と同じ年ごろのムッシューが座っていて、彼も彼女がウトウトしているのを盗みみしていた

私と同じことを考えながら、向いに座った彼女を見てるのか、そんな事は私はしらないが。

ただパリのメトロで居眠りなんかしていたら窃盗なんかがあるので、私はこの二人を冷や冷やしながら見ていたら、

終点の一駅前で、迎えに座ったムッシューが突然身を乗り出していたずらそうな顔をして、寝ていた彼女の鼻をピュイとつまむではないか!

突然の出来事にも関わらず彼女は驚いた風でもなく、優しく目を覚ました。

その瞬間、私はそれまでの彼らを取り巻いていた色がモノクロからが一気に黄色になったのを感じた。

彼は少年の顔をして足取りも軽く彼女にウインクして駅を降りた。

そして、それまで笑い掛けられるなんて思わなかった、誰にも媚びない風の彼女が私に微笑みかけた、

「あのいたずらっ子ったら」みたいな言葉を私に伝えるように。

 

パリではふとしたところであたたかなストーリーが産まれる。

 

病院で今日も面倒な治療をされるのかと思って乗車していた私の足取りも軽くなった。