百済の古都と茶畑を訪ねて 2023年

17 ソウル(2)

 

 

 

 

 鐘路3街から東へ引き返して世運商街を過ぎ、少し歩くと広蔵市場がある。ソウルの中心にあって観光名所にもなっているから、少々敬遠したくもある。けれども訪れてみれば観光客が集まるのはごく一部の通りだけであった。

 

 

 

 広大なアーケードのほとんどはごく普通の市民の市場であって、大都市にあるだけにさすがに活気がある。特に布地の塊を通路の中央に積み上げているところが凄い。

 

 

 

 

 

 通路を歩いていると、あちこちに2階に上がる階段があるのに気がついた。行く人も見かけないけれど何があるのだろうと思い登ってゆく。するとチマチョゴリを着たマネキンが並び、伝統服飾街といった趣のフロアが広がっていた。ボール紙を芯にして巻いてある布地の色合いが、色とりどりだけどなかなか渋い。2階だけでもかなりの面積があるし、段差がある上に天井も低いから、火事になったら逃げられないなと思う。

 

 

 

 「麻薬のりまき」などという日本語の看板がある食堂街を横目に広蔵市場から出ると、今度は芳山総合市場なる建物がある。こちらは化粧品と手芸・工芸・クラフト用品の店が主体であった。東急ハンズとユザワヤと世界堂が合わさったようなところではあるが、全体に薄暗い。時間帯のせいもあるのか、やはりお客の姿はない。

 

 

 

 薄暗い市場の建物から表に出ると、夏の日射しがひときわまぶしい。しかし気温は24度程度だから、東京よりもはるかに低く過ごしやすい。

 適当に歩いてゆくと、くねくねと走るヘビ道のような路地を抜けた。こうした路地は川の跡だったりすることが多い。マンホールが水流の手掛かりになることもあるけれども、この道が水路跡なのかはよくわからない。

 そのヘビ道で、前を行くおばさん二人が腕を組んで歩いている。道幅が狭いので追い越せない。以前の韓国では女同士で腕を組んで歩いている人をよく見かけたものだが、最近はあまり見かけない。

 それにしても、商店の看板が徹底してハングルばかりだ。日本人なら、ハングルの読み方さえ大体でも分かれば意味が分かることも多いけれど、他の言語使用者では、たとえ文字が読めても意味を推測することはできない。まあ、何の店かは商品を見れば分かるのだし、英語(らしき言葉)が氾濫するどこかの国の街頭風景よりはましかもしれないが。

 

 

 雑然とした商店街の出口まで来ると「ありがとう芳山市場」と書かれたアーチがあった。そのそばに小さなアーケードがある。左右の建物から張り出した天蓋の中央が布地で、筒状の雨水落としが歩道の中央に垂れ下がっている。

 

 

 

 

 さて、大通りに突き当たったので、どちらへ行こうかと思案していると、横断歩道の向こうにも大きなアーケード商店街があるのが目に入った。「中部海産乾物市場」と書いてある。私はスルメやカワハギの類が苦手で一切口にしないが、見るだけなら別段かまわない。

 

 

 

 

 

 実際のところ、この市場では海産乾物しか売っていないわけではなく、煮干しのとなりにくるみが積み上げてあったり、普通の八百屋なども店を構えたりしている。中央の明るいアーケードは小売店、左右に伸びる屋外の通りは問屋のようで、問屋部門の方にはあまり人が歩いていない。干物になった魚の頭だけを集めた箱もある。これで出汁をとったら何でもおいしく煮ることができそうだ。

 

 

 今日の昼食は、さっきの南部バスターミナルでパンを二つつまんだだけなので、おなかが空いてきた。そこで、地下鉄の東大門歴史公園駅近くにあるロシア・中央アジア人街へと向かった。何か変わったものがつまめるかもしれない。

 ところが、そのあたりに来てもウズベキスタン料理の店やウズベキスタン航空の看板を出した旅行代理店がポツリポツリとしかない。横浜中華街のような場所を想像したのがそもそも間違いであった。それでも、コンビニエンスストアに入ったらウズベキスタンの紅茶があったので買っておく。残念ながら茶葉はスリランカ産であった。 

 中央アジアでは気候が茶の栽培には向かないのだろう。4000ウォンだから比較的安いと思う。

 

 

 

 そこから横丁に入ったところに、一軒の喫茶店を見つけた。看板に書かれた「RUSSIAN CAKES」というのが店名なのだろうか。日よけにも同じ名前が書いてあると思いきや、こちらは「N」が抜けている。

 ガラス越しに店内を覗くと、若者たちで満席である。女子のグループはともかく、韓国でもスイーツ男子が増殖しているとは意外だ。いずれにしろ、これだけ流行っているということはケーキに期待できそうだ。

 あたりをひと回りして戻ってきたら空席があるので入店。「メドヴェーチ」(熊)というケーキを注文する。

 結論を言うと、このケーキは絶品であった。熊だから甘さは蜂蜜である。今回の旅行で食べたあらゆるものの中でこれが一番おいしかった。若者たちに人気なのも当然だ。

 

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