スイスの東北ぐるり旅 2003年

6 リヒテンシュタインの変貌

 

 ファドーツの夜は寝苦しかった。アッペンツェルでは夜風が涼しかったのに、ライン河谷では盆地のように熱気が滞留しているのだろうか。窓を開ければ深夜にもかかわらず騒音が飛び込んでくる。長距離トラックなどの通過交通も以前より格段に増えている。おまけに隣のガソリンスタンドは終夜営業らしく、一晩中、車のドアを開け閉めする音がしていたのだ。

朝食の時間を待ちかねて食堂に降りていく。庭のテーブルも垣根で区切られた一角に押し込められて窮屈そうだ。

 

 

 ファドーツの中心街へ歩いて行く。暑すぎるせいか歩いている人が少ない。ガストホフから中心街までの間にも新しいオフィスビルが建っている。花壇や噴水など小綺麗な造作ではある。しかし、どうも好きになれない。

ついでに通りのあちこちにオブジェというかインスタレーションというか、現代彫刻の類が置かれている。これも、あまり数が多すぎるのはどうだろう。

 

 

 

 

 あまりに暑いのでインフォメーションセンターの入った建物の3階にあるクンストラオムに避難する。アドルフ・トゥーマなる人の展覧会をやっている。展示の目玉は2メートル以上もある白いタワーで、これはポスターにも採用されている。うね~っとした形で、これは発泡スチロールかしら角砂糖かしらと言い合っていたら、係の人が来て「これを味わってみて」と言う。正解は角砂糖で積み上げるのに2週間かかったそうだ。

 交通安全用の黄色いチョッキを着た小学1年生くらいの一団も見学に来ている。子どもたちなりに楽しんでいるようだ。

 

 

 続いて郵便博物館に入る。先ほどのアドルフ・トゥーマはいくつかの国の切手をデザインしている。リヒテンシュタインの切手はスポーツのモチーフだけで、他にもオーストリアの建築シリーズやルクセンブルク、中国のパンダ切手までデザインしている。

 

 

 さらに公式切手販売所にも行ってみる。カウンターの片隅に絵葉書が積んである。無料なのでいただく。後で町なかの切手商に行ったら同じ絵葉書を70ラッペンで売っていた。その店では、「公式」では額面で売っていた切手を3倍の値段で売っていた。

 

 

 午後はバスに乗って、リヒテンシュタイン南端の村、バルツェスに行く。バスの車窓からも緑みを帯びたガラスのビルが増えているのがわかる。何やら工事中の区画も多い。

 バルツェスの中心でバスを降りると、ここでも建物が一軒取り壊し中である。以前ここには小さな噴水のある広場に面してリヒテンシュタイナー・ホフという建物があった。三角屋根に、窓枠と雨戸が水色と赤の配色で瀟洒な建築だったのに。同行者が「思い出の場所がみんな消えてしまう」とつぶやく。

 

 

 

 

 

 坂道を上って丘の上のグーテンベルク城に行く。城が建っているのは小丘ながら周囲に遮るものがないので、遠くまで見渡すことができる。西側には特異な姿でそびえているゴンテン山、北に目を移せば遠くファドーツ城も見える。東には山の高いところにトリーゼンベルクの村を臨み、南へ伸びる道路はマイエンフェルトに続いているのだ。

 

 

 ここは別に内部が公開されているわけではないので誰も来ない。だから中庭の草の上にシートを敷いてのんびりゴロゴロする。この城だけは何も変わっていないなと思う。中庭にある「キリン」も健在だ。

 

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