スイスの東北ぐるり旅 2003年

1 アッペンツェル(1)

 

 

 3年ぶりにスイスへ行けることになった。チューリヒ行きの機材は前回と同じMD11である。航空会社もスイス航空であるけれども、3年の間に旧スイス航空は破産し、子会社だったクロス・エアがスイス・インターナショナルを名乗っている。便名もSRからLXに変わっている。便名だけ見るとラグジュアリーな印象を受けるのだが、座席はあちこちがこわれ、機内食は食べ終わった直後から空腹感にさいなまれる状態で、とてもじゃないがスイスのイメージに合うフライトではない。

 

 

 それでもチューリヒが近づき、地上の田園地帯を見れば心が躍る。クローテン空港には新しいガラス張りのターミナルができていた。この空港は入国審査もなく、着陸後30分で鉄道駅に降り立てるのがいい。

 駅のあたりも新しくなり、ずいぶんと広くなっている。窓口に行って半額カードと、今回の行程の一筆書き切符を所望する。半額カードはすぐに出てきたけれども、切符本体については、窓口の姐さんがルートのメモを見ながらしばらく機械を操作した挙句にギブ・アップした。奥にライゼ・ビューローの表示が見え、そちらへ行ってみたらあっさりと発券してくれた。

 「ハーフ・タックス・アボ」と呼ばれる半額カードは、有効期間1カ月で99フラン(8500円)。これがあればたいていの鉄道・バス・船がその名のとおり半額になる。さっき買った一筆書き切符は46フランだけれども、はみだし乗車船の区間も少なからずあるので元は取れるはずだ。

 ちなみに、一筆書き切符のルートは、チューリヒ空港 → アッペンツェル → ブーフス → ファドーツ → サルガンス → プフェフィコン → アルト・ゴルダウ → ルツェルン → チューリヒ空港 である。こちらも有効期間は1カ月となっている。

 

 駅ホールの上階にあるノルトゼーでスモークサーモン・バゲットと酢漬けニシン・バゲットを買って列車に乗る。走り出せば毎度のことながら、騒音も振動も無く、正にすべるような乗り心地に感心する。

 

 

 50分ほど乗って、ゴッサウでアッペンツェル鉄道に乗り換える。真っ赤な車体の電車が停車しているけれども、ホームにも列車自体にも行先の表示が無いし駅員もいない。おばあさんにアッペンツェル行きかと聞かれる。もちろんわかるわけがない。

 他に車両も見当たらないので乗り込んでいたら、定刻にゴトリと動き出した。

 

 

 やがて電車はウルネッシュ川に沿って登ってゆき、左右は牧場となる。この地方の民家は妻面にテラスがなく、小窓が並ぶスタイルのようだ。皮が付いたままの木の小札を壁に張り付けている。ウルネッシュでは180度カーブして川を渡った。川に沿って伸びる小さな町なみが見える。進行右手にスイス北東部では一番高いセンティス山があるのでそちらに座ったけれども、陽射しが暑いばかりで山並みはあまり見えない。むしろ左手の穏やかな田園風景の方が見ごたえがある。

 

 

 アッペンツェルに着きホームから地下道を経由して駅舎に出る。この駅に降り立つのは18年ぶりである。以前は、線路をまたいで行き来していたように思う。しかし、かわいらしい駅舎は変わっていない。駅前広場には牧場の匂いが立ち込めている。

 

 

 駅を背にして細長い公園に沿った通りをものの2分も歩けば、町の中心ハウプトガッセである。予約しているホテル・レーベンはその角に建っている。通された部屋はアッペンツェル・スタイルとかで、部屋全体は灰味のかったブルーに塗られ、ベッドや洋服ダンスには花や風景が描かれている。窓の下はハウプトガッセで通りの向かい側にも壁に絵のある建物が並んでいる。室内の掲示には一泊180フラン(15500円)とある。予約した料金はそれよりもはるかに安かった。

 

 

 

 

 窓を閉めれば外の喧騒は一切入ってこない。ただしクーラーは無いから、さすがにこの時期は閉め切っていると夜でも暑い。窓を少しでも開ければ涼しい空気が入ってくるのだが、向かいのレストランでは週末のせいか深夜まで宴会が続いてうるさい。

 

<2 アッペンツェル(2) へ続く>

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