コーンウォールの夏休み 2012年

1 ガトウイック空港 

 

 我が家の人間はスコーンが好きである。休日の朝ごはんか昼ごはんには、クリームティーまたはアフタヌーンティーをいただくことになっているくらい好きである。スコーンにはクロテッド・クリームが欠かせない。クロテッド・クリームは別名をデヴォンシャー・クリームとかコーニッシュ・クリームというくらいで、イングランド南西地方が本場とされている。これまでにデヴォン州までは行ったことがあるが、その先のコーンウォールまでは行ったことがない。ならば、今年の夏休みはコーンウォールまで足を延ばして、クロテッド・クリームを食べ比べてみようではないか。

 ちなみに、今はまだ5月であるが、イギリスの5月は日差しが強く、充分に暑いので夏休みと称してもおかしくはない。

 

 コーンウォールはブリテン島の南西端にある州で、ロンドンからの距離は350キロメートルくらいである。つまり、東京と名古屋くらいしか離れていないわけで案外に近い。しかし、この距離は微妙である。飛行機に乗るには近すぎるけれども、在来の鉄道では時間がかかりすぎる。さりとて、夜行列車を走らせるほどでもない。

 コーンウォールにも、もちろん鉄道が通じていてロンドンから特急クラスの直通列車が走っている。しかし、この路線、途中のエクセターまでは高速化されているのだが、その先がノロい。ニューキーまで5時間もかかるのはイヤだと同行者が言うので、この区間は空路に頼ることにした。

 

 

 さて、まずはロンドンに行かねばならない。ロンドン行きの便が着くのはヒースロー空港である。この空港に東側から降りるときには、ロンドンの南側を飛行する。右側の窓からはロンドン塔にロンドンブリッジ、ビッグベンやロンドン・アイを眺めることができる。天候もコースも良好なのか、今日はひときわよく見える。

 

 

 ヒースロー空港に降り立ったものの、ニューキー行きの便が出るのは翌日の9時5分、ガトウィック空港からである。だから今夜はガトウィック空港近くのホーリーという町にあるB&Bを予約してある。空港間を結ぶリムジンバスはお高いので、地下鉄と郊外電車を乗り継ぐことにする。乗り換えのターミナルはビクトリア駅である。

 ロンドン周辺の鉄道網はかなり複雑である。特にテムズ川の南側はわかりにくい。このビクトリア駅からも様々な行先の電車が頻発している。大きな電光ボードには出発時刻、発車番線と並んで途中停車駅が全て表示されている。しかしながらホームは数多く、地名には馴染みがない。しかも停車駅が多いと一度に表示しきれず、2ページ目、3ページ目と切り替わるので、どの列車に乗れば良いのかさっぱりわからない。

 ようやく19番線の列車にHorleyの文字を見つける。だが、発車まで30分もある上に停車駅が多い。ホーリーに行くには手前のパーリーという駅まで速達列車で行って乗り換えるのが早そうだがそのパーリー行きも見つからない。さらに手前のイースト・クロイドンなら沢山の便が出ている。15番線からすぐに発車するのがあるので改札口を通ったら、そこは9~12番線専用とかで15番線には行けない。12番線の電車もイースト・クロイドンに行くので、とりあえず乗り込む。

 イースト・クロイドンに着き、いったん電車を降りてホームの案内表示を見ると、今乗って来た列車はパーリーにも停まるとあるのであわてて車内に戻る。

 そうしてパーリーに着いたのだが、ここからホーリーに行く列車が少ないのだ。路線図をよくよく見たれば、本線上をホーリーに行く列車はパーリーには止まらず、両方に停まる列車はレッドヒルなる駅を経由する便だけなのである。この路線はロンドンとブライトンを結ぶ幹線でもあり列車種別複々線となっているのだが、場所によって線路が離れていて、レッドヒルのような乗換駅でも急行線が通過となっているから、ややこしいのだ。

 

 

 そうしてたどり着いたホーリーは、ゆったりとした郊外の住宅地であった。メインストリートにはいくつかアコモデーションの看板が見え、その中の1件が予約したB&Bであった。空港敷地に隣接した町ではあるが、飛行機の音はかすかに聞こえる程度でぐっすりと眠れた。

 

 

 翌朝、20番の路線バスで空港に向かう。列車でもひと駅、2分の距離なのだが、バス停は宿の目の前にあるのだ。もっとも、道路工事の関係でバス停は200メートルほど移動していた。

 バスはラウンドアバウトを左折して空港のターミナルビルと鉄道駅との間の道路に入り、両者を結ぶ通路をくぐったところで停車した。バスを降りたけれども、何もない。いや、今しがたくぐった連絡通路から、地上へと続いている避難階段の出口があるだけだ。道には歩道もなくどこへも行けないから、錆びだらけの鉄階段をビル4階分ほど上がる。恐る恐る扉を開けると、旅行者が行き交うあたりまえにきれいな通路に出た。扉のこちら側には非常口としか書かれていないから、飛行機を降りてバスに乗ろうと思ったらバス停にたどり着けないのではなかろうか。

 

 

 チェックインを済ませて、これまた仮設のような安っぽく曲がりくねった通路を抜けると、吹き抜けを見下ろすホールに出た。この構成はダイナミックさがあってなかなか良い。搭乗までの動線に上下移動がないことを「売り」にしている空港もあるのだが、いかほどの意味があるのだろうか。

 ホールの周囲に並んだ免税店を見て回る。国内線と国際線の区別をしていないので、店構えにも商品にも華やぎが感じられる。ラドリーという店でヨークシャーテリアをモチーフにした財布を買う。もうすぐロンドン・オリンピックが始まるはずだが、関連商品などは見当たらない。

 

 ディスプレイに「802便ゲート4」の表示が出たので、搭乗口へと急ぐ。この通路もスタッフ用かと思うほどに狭い。座席に座ると、窓の下で自分たちのスーツケースを積んでいるのが見える。機材はボンバルディアQ400というプロペラ機である。クワイエットのQという割には、プロペラ音が機内に響く。大体においてカナダ製の飛行機は静粛性に欠けるように思う。

 テクニカル・プロブレムとかがあり、1時間遅れで離陸する。離陸直後には菜の花畑などが見えていたが、まもなく厚い雲に覆われてしまった。

 

<2 トルーロからセント・ニューリン・イーストへ へ続く>

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